①6月1日から施行される熱中症対策の義務化について、会社がどこまで対応する必要があるのか教えて下さい。
②10月1日施行の改正育児介護休業法の「柔軟な働き方を実現するための措置」について、既に導入している制度を活用する場合の規定方法等について教えて下さい。

①事業主は「WBGT28度以上又は気温31度以上の環境下で連続1時間以上又は1日4時間以上の実施が見込まれる作業」を行うときは、あらかじめ報告体制整備、熱中症の悪化防止措置・手順作成、それらを関係者への周知することが義務付けられます。
②既に導入している制度を活用する場合、「柔軟な働き方を実施するための措置」として自社が選択する2つの措置を定め、従業員が1つを選択できる旨等の規定を設け、従前の制度の条文を引用する方法が労働者にも分かりやすく望ましいでしょう。ただし、現時点での情報ですので、今後、厚生労働省から発表される情報に留意してください。

熱中症、改正育児介護休業法QA

1.職場の熱中症対策の義務化(労働安全衛生規則の改正)【6月1日施行】

 厚生労働省は本年4月15日に熱中症対策を事業主の義務とする改正省令を公布し、6月1日より改正法が施行されます。事業者が対策を怠った場合、6月以下の拘禁系または50万円以下の罰金が科される可能性があります。
 厚生労働省からパンフレット「職場における熱中症対策の強化について」が示されていますが、法的な対策義務の範囲は何かといった問い合わせも多く、改めて取り上げたいと思います。

(1)労働安全衛生規則の改正条文合

 改正安全性生規則は次のように定め、一定の作業を行う事業主に対し、報告体制の整備、熱中症の悪化防止措置の内容、手順を定め、それらを周知することが義務付けることになりました。

 第612条の2 事業者は、暑熱な場所において連続して行われる作業等熱中症を生ずるおそれのある作業を行うときは、あらかじめ、当該作業に従事する者が熱中症の自覚症状を有する場合又は当該作業に従事する者に熱中症が生じた疑いがあることを当該作業に従事する他の者が発見した場合にその旨の報告をさせる体制を整備し、当該作業に従事する者に対し、当該体制を周知させなければならない。
2 事業者は、暑熱な場所において連続して行われる作業等熱中症を生ずるおそれのある作業を行うときは、あらかじめ、作業場ごとに、当該作業からの離脱、身体の冷却、必要に応じて医師の診察又は処置を受けさせることその他熱中症の症状の悪化を防止するために必要な措置の内容及びその実施に関する手順を定め、当該作業に従事する者に対し、当該措置の内容及びその実施に関する手順を周知させなければならない。

(下線は筆者)

(2)対象となる作業

 対象となるのは、「WBGT28度以上又は気温31度以上の環境下で連続1時間以上又は1日4時間以上の実施が見込まれる作業」です。つまり、①「WBGT28度以上又は気温31度以上の環境下」であり、かつ②「連続1時間以上又は1日4時間以上の実施が見込まれる作業」が対象となります。

  1. 環境条件
    ・WBGTが28度以上
    ・または気温が31度以上
    WBGTは、気温、湿度、輻射熱(日差しなど)を取り入れた暑さの指標です。暑さ指数計(WBGT測定器)より実際の作業現場で測定し、実測できない場合には「熱中症予防情報サイト」で確認することができます。気温が一定の基準を超える場合も該当します。
  2. 作業時間
    上記の環境下で、以下のいずれかの作業時間が見込まれる場合となります。
    ・連続して1時間以上
    ・または1日あたり4時間以上

(3)事業主の義務となった事項

 事業主が上記作業を行うときは、あらかじめ「体制整備」、「手順作成」、「関係者への周知」が義務付けられます。

事業主の義務となった事項

(厚生労働省パンフレット「職場における熱中症対策の強化について」)

 安衛法施行規則第612の2第2項で「作業場ごとに、当該作業からの離脱、身体の冷却、必要に応じて医師の診察又は処置を受けさせることその他熱中症の症状の悪化を防止するために必要な措置の内容及びその実施に関する手順」を定めることとなっており、これはパンフレット掲載のフロー図を参考にするとよいでしょう。

職場における熱中症対策の強化について
職場における熱中症対策の強化について

(厚生労働省パンフレット「職場における熱中症対策の強化について」)

【補正】
 東京労働局によると、上記フロー図は①詳細版、②簡易版という考え方のようですので、分かりやすい方をご参考ください。軽度と重度といったことではないようで補正させていただきます。

(4)職場における熱中症予防基本対策要綱に基づく取り組み

 上述のパンフレットでは、従前から示されていた「職場における熱中症予防基本対策要綱」(基発0726第2号令和3年7月26日)に定められている取り組みについても掲載されています。以下、同要綱について要点を抜粋しておきます。

第1 WBGT 値(暑さ指数)の活用
  1. WBGT 値等
    WBGT(Wet-Bulb Globe Temperature:湿球黒球温度(単位:℃))の値は、暑熱環境による熱ストレスの評価を行う暑さ指数(式①又は②により算出)であり、作業場所に、WBGT 指数計を設置する等により、WBGT 値を求めることが望ましいこと。
    特に、熱中症予防情報サイト等により、事前に WBGT 値が表1-1の WBGT 基準値(以下「WBGT 基準値」という。)を超えることが予想される場合は、WBGT 値を作業中に測定するよう努めること。(略)
  2. WBGT 値に係る留意事項
    (略)WBGT 基準値は、健康な労働(作業)者を基準に、ばく露されてもほとんどの者が有害な影響を受けないレベルに相当するものとして設定されていることに留意すること。
  3. WBGT 基準値に基づく評価等
    把握したWBGT値が、WBGT 基準値を超え、又は超えるおそれのある場合には、冷房等により当該作業場所の WBGT値の低減を図ること、身体作業強度(代謝率レベル)の低い作業に変更すること、WBGT基準値より低い WBGT 値である作業場所での作業に変更すること等の熱中症予防対策を作業の状況等に応じて実施するよう努めること。
    それでもなお、WBGT基準値を超え、又は超えるおそれのある場合には、第2の熱中症予防対策の徹底を図り、熱中症の発症リスクの低減を図ること。ただし、WBGT基準値を超えない場合であっても、WBGT基準値が前提としている条件に当てはまらないとき又は着衣補正値を考慮したWBGT 基準値を算出することができないときは、WBGT基準値を超え、又は超えるおそれのある場合と同様に、第2の熱中症予防対策の徹底を図らなければならない場合があることに留意すること。
    上記のほか、熱中症の発症リスクがあるときは、必要に応じて第2の熱中症予防対策を実施することが望ましいこと。
    この具体的な熱中症予防策については、当該作業からの離脱、身体の冷却、必要に応じて医師の診察又は処置を受けさせることが、第2項により作業場ごとに定めることになります。(下線は筆者)
職場における熱中症予防基本対策要綱

(厚生労働省「職場における熱中症予防基本対策要綱」(基発0726第2号令和3年7月26日)

第2の熱中症予防対策については、上述のパンフレットにまとめられていますので、ご参考ください。

職場における熱中症対策の強化について

(厚生労働省パンフレット「職場における熱中症対策の強化について」)

改正育児介護休業法の「柔軟な働き方を実現するための措置」について【10月1日施行】

2.改正育児介護休業法の「柔軟な働き方を実現するための措置」について【10月1日施行】

 厚生労働省から改正育児介護休業法の10月1日施行分に対応したあらまし、規程例詳細版、Q&A等がホームページで示されています。10月1日施行の「柔軟な働き方を実現するための措置」については、過半数労働組合(なければ過半数代表者)から意見を聴いた上で措置を定める必要がありますので、準備を進める企業も多いと思います。現段階で質問の多い事項について、Q&Aの抜粋と、施行通達、労働局等にも確認した内容をまとめておきます。
ただし、現時点での情報であり不明な点も多く、労働局へのヒアリング内容は変更となる可能性もありますので、今後厚生労働省から発表される情報にご留意ください。

Q2-7
事業主が、今回の改正を踏まえ、「柔軟な働き方を実現するための措置」を講ずる際、既に事業主が独自に当該措置で2つ以上の制度を導入している場合には、特段、新たな対応は求められないという理解でよいですか。

A2-7
既に社内で導入している制度(例えば「始業時刻等の変更」と「短時間勤務制度」)がある場合に当該制度を「柔軟な働き方を実現するための措置」として選択して講ずることは可能です。
この場合、「柔軟な働き方を実現するための措置」が、3歳から小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者が柔軟な働き方を通じて仕事と育児を両立できるようにする趣旨であるため、既に社内で導入している制度を「柔軟な働き方を実現するための措置」として講ずる場合においても、職場のニーズを把握するため改正後の育児・介護休業法第 23 条の3第4項に基づき、過半数労働組合等から意見を聴取する必要があります。
なお、2つを措置した後、措置内容を追加、変更する場合においても、改めて過半数労働組合等からの意見を聴取する必要があります。

上記Q&Aから、企業の育児介護休業規程を定める際にこれまでの制度の規定を活かすことは可能です。既に導入している制度を当該措置とする場合に、「柔軟な働き方を実施するための措置」として新たな規定が必要かというご相談があります。この点、均等室に確認した所、実質的に措置が講じられていることが分かればよいが、「柔軟な働き方を実施するための措置」の条文を設け自社が設置した2つの措置から選択できる旨を定め、従前の制度の条文を引用する方法が労働者にも分かりやすく望ましいとの見解です。

Q2-7-2
短時間労働者で既に6時間勤務以下の場合,当該短時間勤務制度の選択肢は措置済みと理解してよろしいでしょうか。または,短時間勤務制度以外で,2つ以上の措置を実施しなければならないのでしょうか。
※令和7年1月 23 日 追加

A2-7-2
パートタイム労働者等の短時間労働者であって1日の所定労働時間が6時間以下のものについても、新制度(柔軟な働き方を実現するための措置)の対象となるところ、事業主が短時間労働者も含めて、①短時間勤務制度(1日の所定労働時間を6時間に短縮できるもの)と②それ以外の4つの選択肢のいずれかの措置で①②合わせて2つ以上講じた場合、新制度(柔軟な働き方を実現するための措置)の措置義務を履行したこととなります。なお、労働者の1日の所定労働時間が6時間以下であることをもって直ちに「短時間勤務制度」の措置を講じたことにはならず、事業主は短時間勤務制度を含む5つの選択肢の中から、2つ以上を選択して措置する義務があります。
また、例えば、1日の所定労働時間が6時間以下の短時間労働者と、1日の所定労働時間が6時間を超える正社員がいる事業所において、正社員には短時間勤務制度以外の選択肢から2つの措置を講じつつ、短時間労働者には短時間勤務制度を含む2つの措置を講じるような場合、パートタイム・有期雇用労働法により、

  1. 職務の内容
  2. 職務の内容・配置の変更の範囲
  3. その他の事情

のうち、その待遇の性質及び目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理な待遇差に当たらないようにすることが求められます。併せて、事業主においてその際の理由を労働者に対して合理的に説明できなければなりません。

(※下線筆者)

パートに対する「柔軟な働き方を実施するための措置」をどこまで講ずる必要があるのか、質問の多い事項です。当該Q&Aの解釈が難しく、東京労働局への確認では、厚生労働省へ詳細を照会中ということで、行政内でも見解がまとまっていません。

Q2-17
当社では、福利厚生サービスを提供する企業と契約し、年会費を支払い、カフェテリアプランの一環として、社員が当該企業が提携するベビーシッターのサービス等の福利厚生サービスを選択・利用できるようにしています。この場合、ベビーシッターの手配及び費用負担の措置を講じたことになりますか。

A2-17
措置を講じたことになります。
事業主は、福利厚生サービス会社と法人契約をし(手配)、会費を支払うことにより事実上労働者が利用したベビーシッターサービス料金の一部を負担しているため(費用負担)、事業主の「手配」かつ「費用負担」が認められるので、便宜の供与に該当し、措置を講じたことになります。

会社がカフェテリアプランを提供する福利厚生サービス会社と契約し会費を支払い、従業員がベビーシッターサービスを選択・利用できるようにすることで、「柔軟な働き方を実施するための措置」のうち「保育施設の設置運営等」の措置を講じたことになります。

【その他の質問】

養育両立支援休暇を検討している企業では、制度を定める際、以下のような観点も検討するとよいと考えます。

Q1 時間勤務制度、10月以降は養育両立支援休暇を利用したいと申出があった場合にどう対応すればよいでしょうか?この場合に、養育両立支援休暇は半年間なので5日間にするといったことは可能でしょうか?

A1 厚生労働省は、養育両立支援休暇について、制度利用開始日が事業年度の途中である場合、休暇を与える日数は、事業年度終了までの残りの日数で按分し当該休暇として付与する日数を算出することができるとしています(「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律の施行について」(令和7年10月1日)。以下「施行通達」という)。
 また、養育両立支援休暇は、1年につき10労働日以上の利用ができるよう制度設計が必要ですが、「1年につき」とされているため、例えば、6か月で5日、1か月で1日のように、社内制度において1年以内の期間で配分を設定した場合であっても、1年単位でみたときに計 10 労働日以上の休暇が確保されていれば差支えないとされています(厚生労働省「令和6年改正育児・介護休業法に関する Q&A」 (令和7年1月 23 日時点)Q2-14。以下「Q&A」という)。
 以上から、例えば、育児介護休業規程に当該制度を定めるにあたって、「制度利用開始日が事業年度の途中の場合は、事業年度終了までの残りの日数で按分した休暇日数を付与する」といった定めを設け、これに沿った運用をすることは可能と考えます。また、上記Q&Aを参考に、1年以内の期間で配分を設定する制度にしてもよいと考えます。

Q2 これまでの自社の休暇制度を活用して養育両立支援休暇とすることはできますか?

A2 例えば、積立有給制度を利用することが考えられます。施行通達では「時間単位での取得を可能としていること、具体的な休暇の用途を限定しないものとすること等の要件を満たしていれば、失効年次有給休暇の積立を養育両立支援休暇として措置することは可能であること。その場合、当該失効年次有給休暇 の日数が1年間に 10 労働日を下回っている労働者には、別途不足分の日数に養育 両立支援休暇を加えて1年間に 10 労働日以上の日数の利用をすることができるものとしなければならないこと。」といったことも定められています。
 その他、「育児目的休暇」(配偶者出産休暇やこの行事参加に伴う休暇など「育児に関する目的のために利用できる休暇」(育児介護休業法第24条第1項))を既に導入している場合に、この「育児目的休暇」を3歳以降小学校就学前までの制度として独立させ「1年につき10労働日以上の利用をすることができるもの」等の「養育両立支援休暇」の要件を満たすものとして設定することが可能とされています(Q2-12)