賞与、退職金の同一労働同一賃金の最高裁判決が出たそうですが、非正規労働者に賞与・退職金を払わなくてよいのですか?

アルバイト職員の賞与不支給や契約職員の退職金不支給について、不合理でないと判断されましたが、賞与、退職金は非正規労働者に払わなくてよいという単純なものではないことに注意が必要です。その支給趣旨や①業務内容、②責任、③配置変更の範囲、④その他の事情から不合理かどうか判断されるため、自社の制度がこのような観点で整理できるか検討が必要です。

1.賞与・退職金についての最高裁判決

働き方改革関連法により、正社員と非正規社員との間の不合理な待遇差を禁止する規定が「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」に整備されています(施行日は令和2年4月、中小企業は令和3年4月)。
 併せて、厚生労働省は「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」(厚生労働省告示430号平成30年12月28日。以下「指針」という)を示しています。指針は、基本的な考え方を規定し、事業主・労使の取り組みを促す趣旨のもので、裁判所の法的判断を拘束するものではありません。ただし、裁判所が指針を踏まえて不合理性の判断をする可能性はあります。また、指針は、どの程度の待遇差にすべきかまで詳細には規定していませんので、判例等も踏まえて、どのような待遇差にするのか検討していく必要があります。
 実務的には、指針や裁判を踏まえて、待遇差の説明が難しく改善が必要なものや、比較的対応し易いものなどから、優先順位をつけて改善していく方法が一般的です。また、司法判断がはっきりしていない項目については、保留している企業もありました。
 そしてこの10月に、注目されていた賞与・退職金等が論点になった最高裁の判決が出ました。大きく報道されましたので、結果をご存知の方も多いと思いますが、賞与、退職金は非正規労働者に払わなくてよいという単純なものではないことに注意が必要です。また、扶養手当に関する最高裁判決もでていますが、こちらについては改めて取り上げる予定ですので、本号では賞与・退職金の事例を中心にみていきましょう。

2.判断ポイント

 パート・有期労働法では、同一労働同一賃金について次のように規定されています。これを簡単に整理すると、正社員と非正規社員との間で、①業務内容、②責任、③配置変更の範囲、④その他の事情から判断して、待遇差が不合理であってはならないとしています。つまり、①~④の相違に応じて、バランスのとれた待遇にする必要があるということです。最高裁判決でも、各会社の事情を、支給目的と①~④の要素から検討し、判断しています。

【短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律】

◆均衡待遇
(不合理な待遇の禁止) 
第八条 事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容①及び当該業務に伴う責任の程度②(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲③その他の事情④のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。

3.賞与・私傷病欠勤中の賃金
大阪医科大学事件(最三小判・令2.10.13)

アルバイト職員の賞与不支給と病気欠勤中の賃金不支給が問題になった事例

【賞与】
◆支給目的
  • 正社員の賞与は、基本給×4.6か月分が支給基準
  • 業績連動ではなく、算定期間における労務の対価の後払い、一律の功労報償、将来の労働意欲の向上等の趣旨を含む。
  • 正社員の基本給は勤続年数に伴う職務遂行能力の向上に応じた職能給の性格を有し、業務内容の難度や責任の程度が高く、人材の育成や活用を目的とした人事異動が行われていた。

⇒このような正社員の賃金体系は求められる職務遂行能力及び責任の程度等に照らせば、正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から、正社員に対して賞与を支給することとしたものといえる。

◆①~④の要素

①業務内容(教室事務員であるアルバイト職員と正職員の比較)、②責任

  • アルバイト職員…定型的で簡便な作業(スケジュール管理、電話来客対応、資料作成、各種事務、教室の経理、備品管理、清掃やごみの処理、出納の管理等)
  • 正職員…これに加えて、学内の英文学術誌の編集事務等、病理解剖に関する遺族等への対応、部門間の連携を要する業務、毒劇物等の試薬の管理業務等

③配置変更の範囲

  • 正職員…就業規則上人事異動を命ぜられる可能性があった。
  • アルバイト職員…原則として業務命令によって配置転換されることはなく、人事異動は例外的かつ個別的事情により行われていた。

④その他の事情

  • 教室事務員の業務の内容の過半が定型的で簡便な作業等であったために、平成13年ころから、一定の業務等が存在する教室を除いてアルバイト職員に置き換えてきた。そのため配置変更の範囲が違う。
  • アルバイト職員→契約職員→正社員への登用制度がある。
◆その結果
  • 正職員の賞与は、基本給の4.6カ月分で、そこに労務の対価の後払いや一律の功労報償の趣旨が含まれることや、
  • 契約職員に対して正職員の約80%の賞与が支給されていたこと、
  • 当該アルバイト職員に対する年間の支給額が平成25年4月に新規採用された正職員の基本給・賞与の合計額と比較して55%程度の水準にとどまること をしんしゃくしても、教室事務職員である正職員と当該アルバイト職員の間に賞与に係る労働条件の相違があることは、不合理であるとまで評価することができるものとはいえない。

⇒以上から、「不合理と認められるものに当たらない」とされた。

【私傷病欠勤中の賃金】
◆支給目的
  • 私傷病により労務提供できない状態にある正職員に対し、私傷病欠勤期間中給料(6カ月間)及び休職給(休職期間中において標準給与の2割)支給することとしたのは、正職員が長期にわたり継続して就労し、又は将来にわたって継続して就労することが期待されることに照らし、正職員の生活保障を図るとともに、その雇用を維持し確保するという目的によるものと解される。
◆①~④の要素
  • 上記と同様に、①~④に相違がある。
  • アルバイト職員は、契約期間を1年以内とし、更新される場合はあるものの、長期雇用を前提とした勤務を予定しているものとはいい難いことにも照らせば、アルバイト職員は、雇用を維持し確保することを前提とする制度の趣旨が直ちに妥当する者とはいえない。
  • 当該アルバイト職員は、勤務開始後2年余りで欠勤扱いとなり、欠勤期間を含む在籍期間も3年余りにとどまり、その勤続期間が相当の長期間に及んでいたとは言いがたく、当該アルバイト職員の有期労働契約が当然に更新され計画期間が継続する状況にあったことを伺わせる事情も見当たらない。
◆その結果

⇒以上から、「不合理と認められるものに当たらない」とされた。

4.退職金
メトロコマース事件(最三小判・令2.10.13)

契約社員Bの退職金不支給が問題となった事例。

◆支給目的
  • 正社員の退職金は、本給×勤続年数に応じた支給月数
  • 正社員は本社の各部署や事業本部が所管する事業所等に配置され、業務の必要により配置転換等を命ぜられることもある。
  • 退職金の算定基礎となる本給は、年齢給と職務遂行能力に応じた職能給からなっている。
  • これらの支給要件や支給内容に照らせば、上記退職金は、上記の職務遂行能力や責任の程度等を踏まえた労務の対価の後払いや継続的な勤務等に対する功労報償等の複合的な性質を有するものである。
  • 会社は、正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から、様々な部署等で継続的に就労することが期待される正社員に対し退職金を支給したものといえる。
◆①~④の要素

①業務内容、②責任

  • 正社員…休暇や欠勤で不在の販売員に代わって早番や遅番の業務を行う代務業務を担当。複数の売店を統括し、売上向上のための指導、改善業務等の売店業務のサポートやトラブル処理、商品補充に関する業務等を行うエリアマネージャー業務に従事することがあった。
  • 契約社員B…売店業務に専従。原則として代務業務を行わず、エリアマネージャー業務に従事することもなかった。

③配置変更

  • 正社員…業務の必要により配置転換等を命ぜられる現実の可能性があり、正当な理由なく拒否することはできなかった。
  • 契約社員B…業務の場所の変更を命ぜられることはあっても、業務の内容に変更はなく、配置転換等を命ぜられることはなかった。

④その他の事情

  • 売店業務の正社員は関連会社等の組織再編や契約社員Bからの正社員登用であり、その職務経験等に照らし、賃金水準を変更したり、他の部署に配置転換等をしたりすることが困難な事情があった。
  • 契約社員A及び正社員へ段階的に職種を変更するための登用制度があり、相当数の実績があった。
◆その結果
  • 契約社員Bの有期労働契約が原則として更新するものとされ、定年が65歳と定められるなど、必ずしも短期雇用を前提としていたものとはいえず、当該契約社員らがいずれも10年前後の勤続期間を有していることをしんしゃくしても不合理であるとまでいえない。
  • 契約社員Aは、平成28年4月に職種限定社員に改められ、無期労働契約に変更されて退職金制度が設けられたものの、このことがその前に退職した契約社員Bである当該契約社員らと正社員との退職金の労働条件の相違が不合理であるとの評価を基礎づけるものとはいいがたい。
  • 契約社員Bと職種限定社員との間には職務の内容及び変更の範囲に一定の相違があることや、契約社員Bから契約社員Aへの登用制度が存在したこと等からすれば、無期契約労働者である職種限定社員に退職金制度が設けられたからとして、上記の判断を左右するものでもない。

以上から、「不合理と認められるものに当たらないと解するのが相当である。」とされた。

5.実務上の対応

 上記判決においても、支給目的と①~④の要素から判断しており、これまでの実務対応に変更はありません。賞与や退職金についても、自社の支給目的と①~④の整理を行い、支給の有無、その程度を検討することが必要になります。
最高裁の事例では、賞与も退職金も、基本給に支給月数をかける制度で基本給がベースになっています。その基本給が職能給であり、これが正社員の能力向上にともなって昇給する制度であること、能力向上のために配置転換が行われること等に着目して、正社員としての職務を遂行できる人材の確保やその定着を図る目的を導き出している点も注目です。
 なお、メトロコマース事件では、林景一裁判官の補足意見と宇賀克也裁判官の反対意見が述べられました。補足意見では、退職金制度は賃金体系全体を見据えた制度設計がされるのが通例で、その原資を長期間にわたって積み立てる必要があるから、社会経済情勢や使用者の経営状況の動向等にも左右されます。そうすると、退職金制度の構築に関し、これら諸般の事情を踏まえて行われる使用者の裁量判断を尊重する余地は比較的大きいと解されるとしている点は注目です。併せて、有期契約労働者に対し企業型確定拠出年金の導入や個人型確定拠出年金への加入に協力する企業が出始めていることにふれ、その他にも、在職期間に応じて一定額の退職慰労金を支給することなども考えられるなどの実務的な示唆もなされています。
 一方、反対意見では、正社員の4分の1に相当する額を支給すべきとした原審の判断を支持する意見を述べていますが、原資をどうするのかといった問題もあり、すべからく同様に考えるのは現実的ではないと個人的には考えます。