当社では、残業削減対策として朝型勤務ができる時差出勤制度を検討しています。どのような導入方法があるのでしょうか。

柔軟な働き方を行う方法としては、始業・終業時刻の繰上げ・繰下げによる時差出勤、フレックスタイム制などがあります。

【1】注目される柔軟な働き方

 厚生労働省は「労働時間等見直しガイドライン」(平成20年厚生労働省告示第108号)にて、朝型の働き方を推奨しています。また、東京都は通勤ラッシュ緩和などに対する施策として、時差ビズを掲げており、時差出勤、フレックスタイム制などを働き方改革の一つにあげています。実際に、朝型勤務を導入した結果、残業時間が削減されたなど、生産性の向上につなげている企業の報道事例もあります。
 このように、柔軟な働き方ができる環境整備は注目される課題の一つです。実務上も、時差出勤等の相談を受けるケースが増えてきているという実感があります。柔軟な働き方を行う方法としては、時差出勤、フレックスタイム制、在宅勤務などがありますが、この回では始業・終業時刻の繰上げ・繰下げによる時差出勤制度を中心に取り上げたいと思います。

【2】時差出勤、フレックスタイム制の制度概要

(1)時差出勤

 時差出勤制度は、1日の労働時間を変えずに、始業時刻と終業時刻を変更する働き方です。業務の都合や労働者個人の都合に合わせて柔軟に対応することができます。
 具体的には、始業時刻や終業時刻の繰上げ・繰下げ等の労働時間の変更条項を就業規則に定めます。この条文に従って、通常の始業時刻より早く出勤した場合は早出した時間分と同じ時間を繰上げて早帰りする、反対に遅く出勤した場合は、同じ時間を繰り下げて遅く退勤するという制度です。例えば、通常の始業時刻が9時、終業時刻が18時の会社で1時間繰り上げる場合は、始業時刻は8時、終業時刻は17時になります。総労働時間は8時間で変わりません。
早出した時間分と同じ時間を繰上げて早帰りすれば、通常の時間勤務したのと同額の賃金を支払うだけで、原則として時間外労働(深夜手当は除く)は発生しません。しかし、1日8時間を超えるなど、法定労働時間を超えると時間外労働になります。
制度導入にあたり、就業規則への規定は必要ですが、労働基準法の規制は特になされていないため、導入や運用のハードルが低く、近年注目を集めている制度です。

(2)フレックスタイム制

 フレックスタイム制は、一定の期間の総労働時間を定めておき、その範囲内で労働者自身が各日の始業及び終業の時刻を選択して働くことができる制度です。清算期間を平均して週法定労働時間(原則40時間)を超えない範囲内において、1週又は1日の法定労働時間を超えて労働させても時間外労働とはならないという制度です。労働基準法にて、就業規則の定め、労使協定の締結などが義務付けられていますので、導入には一定のハードルがあります。一方で、1日8時間を超える労働をしても、清算期間を平均して法定労働時間に収まっていれば、時間外労働にはなりません。逆に、1日の標準の労働時間に達しない時間も欠勤となりません。フレキシブルタイムの間であれば、労働者が始業・終業時刻だけでなく、1日の勤務時間の長さも選択できるため、より柔軟性が高く、労働者にとって使い勝手の良い労働時間制度と言えます。しかし、例えば客先の都合に合わせて勤務時間が決まるような業種や職種では、導入が困難な場合もあります。

(厚生労働省「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き」3頁)

【3】規定例

(1)時差出勤

 労働基準法では、時差出勤についての定めがないため、ある程度自由に制度設計できます。しかし、現在多くの企業の就業規則に定められている一般的な始業・終業時刻の繰上げ・繰下げの条文では、試行的な運用の場合を除いて、時差出勤制度としては内容が不足している可能性があります。一般的に必要な規定とポイントは次の通りです。

  1. 始業・終業時刻を定めておく
    フレックスタイム制とは異なりますので、就業規則に始業・終業時刻の定めが必要です(労働基準法89条第1号)。規定例をご参考ください。
  2. 適用対象者の範囲
    適用対象者を限定する場合は、適用対象者の範囲を規定します。
  3. 始業・終業時刻を自己選択による繰上げ・繰下げ制とすること
    規定例のように、適用対象者が始業・終業時刻を自己選択により繰上げ・繰下げできることを定めます。また、時差出勤が可能な時間帯を定める場合は、その時間帯も規定します。
  4. 時差出勤を利用できる事由、利用できる期間
    時差出勤を利用できる事由、利用できる期間を設ける場合は、その旨を規定します。
  5. 所属長への事前承認制など

 労働基準法の規制はありませんので、所属長への事前届出や、許可承認を要することとしても問題ありません。届出や承認制にしておくことで、その日の出勤が遅刻なのか、それとも始業時刻の繰り下げなのかが区別することができ、出勤がルーズになるのを防止することができます。以下、規定例と時差出勤申請書例をあげておきます。

(1)勤務間インターバルへの対応措置としての始業時刻の繰り下げ

 働き方改革法(平成30年7月6日公布)によって、「労働時間等の設定の改善に関する特別措置法」が改正され、「勤務間インターバル」制度導入が企業の努力義務となりました。
 勤務間インターバルとは、前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定時間の休息時間を確保することです。あくまで努力義務ですので、必ずインターバルを設けなければならないということでありません。また、休息時間数をどう設定するのか、インターバルの取得を義務付けるのか、努力目標とするのかなど、どのような制度にするのかも各企業にゆだねられています。
 この勤務間インターバル制度を導入する方法としては、①休息時間と翌所定労働時間が重複する部分を労働とみなす方法や②始業時刻を繰り下げる方法などがあげられます。時差出勤の一つとして、②の場合の規定例をあげておきます。休息時間数の設定については、「時間外労働等改善助成金」では、新規導入の事業場の場合、休息時間数が9時間以上の規定をおくことが要件の一つになっていますので、この時間が参考の一つになるでしょう。

(勤務間インターバル)
第○条 会社は、従業員に対し、1日の勤務終了後、次の勤務の開始までに、9時間以上の継続した休息時間を与える。ただし、休息時間を与えることができない特別の事情があると会社が認める場合は、この限りでない。
2 前項の休息時間の満了時刻が、次の勤務の所定始業時刻以降に及び場合、翌日の始業時間は、前項の休息時間の満了時刻まで繰下げ、始業時刻の繰下げ時間に応じて終業時刻も繰り下げるものとする。