最近の法改正について教えて下さい。

  1. 労働基準法の改正により、賃金の時効が2年から5年に延長されました。ただし、当分の間は3年です。
  2. 副業・兼業を行う複数就業者に関する雇用保険法や労災保険法の見直しがなされました。
  3. 高年齢者雇用安定法が改正され、65歳から70歳までの高齢者就業確保措置を講ずることが努力義務となります。

1.労働基準法の改正(賃金等の時効の延長:施行日 2020年4月1日 経過措置あり)

今年の4月に民法が改正され、債権の消滅時効が原則5年に統一されました。これを受けて、労働基準法の賃金等の時効についても検討が行われ、改正民法と同様に5年に延長する改正法がこの国会で成立しました。改正の概要は次の通りです。

(厚生労働省「労働基準法の一部を改正する法律案の概要」)

施行日は2020年4月1日ですが、ただちに長期間の延長することは、労使の権利関係を不安定化するおそれがあることなどから、「賃金請求権の消滅時効」、「賃金台帳等の記録の保存期間」、「割増賃金未払い等に係る付加金の請求期間」は、当分の間は5年ではなく3年となります。
 改正法は、2020年4月1日以降に支払われる賃金に適用されますので、施行日以降に支払われる賃金の時効が3年となります。2022年4月以降、時効の延長が表面化することになります。今一度未払になっているものなどは無いか、確認しておくとよいでしょう。

2.雇用保険法等の一部を改正する法律

 高齢者の就業機会の確保や、複数就業者に対応したセーフティネットの整備等を図るため、雇用保険法、高年齢者雇用安定法、労災保険法等の改正がなされました。施行日は次の表の通りです。

(1)高齢者の就業機会の確保及び就業の促進

①高年齢者雇用安定法の改正
(65歳から70歳までの高齢者就業確保措置の努力義務化:施行日 2021年4月1日)

 2021年4月1日からは、65歳から70歳までの就業機会を確保することが、企業の努力義務となります。定年廃止、定年延長、継続雇用制度の導入といった現行の高年齢者雇用安定措置と同様の措置に加えて、特殊関係事業主以外の企業への再就職に関する制度、フリーランスや起業による就業に関する制度、社会貢献活動への従事に関する制度等が新たに設けられ、いずれかの措置を講ずることが事業主の努力義務となります。
改正された法律の内容は、次の通りです。
 定年(65歳以上70歳未満のものに限る)の定めをしている事業主又は継続雇用制度(高年齢者を70歳まで引き続いて雇用する制度を除く)を導入している事業主は、その雇用する高年齢者(特殊関係事業主に現に雇用されているものを含む)について、次の措置を講ずることにより、65歳から70歳までの安定した雇用を確保するよう努めなければなりません(改正高年齢者雇用安定法第10条の2第1項)。

  1. 当該定年の引上げ
  2. 65歳以上継続雇用制度(その雇用する高年齢者が希望するときは、当該高年齢者をその定年後等も引き続いて雇用する制度をいう)
  3. 当該定年の定めの廃止

 ただし、当該事業主が、労働者の過半数を代表する者等の同意を得た上で導入される、次の創業支援等措置を講ずることにより、その雇用する高年齢者について65歳から70歳までの間の就業を確保する場合はこの限りではありません(改正高年齢者雇用安定法第10条の2第1項、第2項)。

  1. その雇用する高年齢者が希望するときは、当該高年齢者が新たに事業を開始する場合に、事業主が、当該事業を開始する当該高年齢者(以下「創業高年齢者等」という)との間で、当該事業に係る委託契約その他の契約(労働契約を除き、当該委託契約その他の契約に基づき当該事業主が当該事業を開始する当該創業高年齢者等に金銭を支払うものに限る。)を締結し、当該委託契約に基づき当該高年齢者の就業を確保する措置
  2. その雇用する高年齢者が希望するときは、次に掲げる事業(ロ又はハの事業については、事業主と当該事業を実施する者との間で、当該事業を実施する者が当該高年齢者に対して当該事業に従事する機会を提供することを約する契約を締結したものに限る。)について、当該事業を実施する者が、当該高年齢者との間で、当該事業に係る委託契約その他の契約(労働契約を除き、当該委託契約その他の契約に基づき当該事業を実施する者が当該高年齢者に金銭を支払うものに限る。)を締結し、当該契約に基づき当該高年齢者の就業を確保する措置
    • 当該事業主が実施する社会貢献事業(社会貢献活動その他不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与することを目的とする事業をいう。以下この号において同じ)
    • 法人その他の団体が当該事業主から委託を受けて実施する社会貢献事業
    • 法人その他の団体が実施する社会貢献事業であって、当該事業主が当該社会貢献事業の円滑な実施に必要な資金の提供その他の援助を行っているもの
②雇用保険法(高年齢雇用継続給付の縮小:施行日2025年4月1日)

 同一労働同一賃金法制により、公正な待遇の確保が求められていくことを踏まえ、高年齢者雇用継続給付については段階的に縮小していくことになりました。
 この給付は高年齢者の継続雇用における処遇決定に影響を与えていることから、周知のための十分な時間を確保し、激変を避ける対応が必要とされました。具体的には、2024年度までは現状を維持した上で、65歳未満の継続雇用制度の経過措置が終了する(希望者全員の65歳までの雇用が全面適用となる)2025年度から次のように引き下げられます。

(2)副業・兼業関係

①労災保険法
(複数就業者の見直し:施行日 公布後6ヶ月を超えない範囲内において政令で定める日)

 事業主が同一人でない二以上の事業に使用される労働者(以下「複数事業労働者」という)の二以上の事業の業務を要因とする事由による負傷、疾病、障害又は死亡に対して、必要な保険給付を行うことが改正の目的です。
 「複数業務労働者の2以上の事業の業務を要因とする事由による負傷、疾病、障害又は死亡」のことを「複数業務要因災害」といいます(労災保険法7条第1項第2号)。それぞれの就業先の負荷のみでは業務と疾病等との間に因果関係が認められないものの、複数就業先での業務上の負荷を総合評価することにより疾病等との間に因果関係が認められる場合、新たに労災保険給付を行うことになります。なお、一の就業先における業務上の負荷によって、労災認定できる場合は、現行と同様、当該就業先における労働災害となります。
複数就業先での業務上の負荷を総合して評価して労災認定する場合についても、労働者への過重負荷について定めた現行の認定基準の枠組みにより対応することが適当とされています(「複数就業者に係る労災保険給付等について」労審発第1121号令和元年12月3日)。
 なお、休業補償給付については、複数事業労働者の給付額は、基本的には各事業場でもらっている賃金を合算して給付額を決定することになります。すなわち、複数事業労働者の休業給付等については、当該労働者を使用する事業場ごとに算定し給付基礎日額に相当する額を合算した額を基礎として、厚生労働省令で定めるところによって政府が算定する額を給付基礎日額とするとされています(同法8条第3項)。

②雇用保険法
(高年齢被保険者の特例:施行日 2020年4月1日)

 これまで雇用保険は、例えば二つの会社に勤務し雇用関係があっても、一社についてしか加入することができませんでした。また、「週20時間以上であって、継続して31日以上の雇用が見込まれること」という加入要件があるため、トータルの労働時間が20時間以上であっても、それぞれの会社の労働時間が20時間未満の場合には、雇用保険に加入することができませんでした。
 このような複数就業者のセーフティネットを整備すべく、雇用保険法が見直されることになりました。ただし、複数就業者に雇用保険を適用するにしても、技術的な課題などがあることから、まずは一定の層に限定して試行されます。
 具体的には、次のいずれにも該当する者が、厚生労働省令で定めるところにより、厚生労働大臣に申し出た場合には、高年齢被保険者となることができます。

  1. 二以上の事業主の適用事業に雇用される65歳以上の者であること。
  2. 一の事業主の適用事業における1週間の所定労働時間が20時間未満であること。
  3. 二の事業主の適用事業(申出を行う労働者の一の事業主の適用事業における1週間の所定労働時間が厚生労働省令で定める時間以上であるものに限る。)における1週間の所定労働時間の合計が20時間以上であること。