近く予定されている法改正について教えて下さい。

労働条件明示事項と有期労働契約の無期転換ルール、裁量労働制について省令・告示が改正されます。施行日は令和6年4月1日です。

近時の労働法改正

1.労働条件明示事項と裁量労働制の改正【令和6年4月1日】

 厚生労働省の労働政策審議会(労働条件分科会)は、「今後の労働契約法制及び労働時間法制の在り方について(報告)」(令和4年12月27日労働条件分科会)を公表しました。
 これに基づき、労働条件明示事項と有期労働契約の無期転換ルール、裁量労働制等について、省令や告示の改正が行われ、令和6年4月1日に施行されます。
 以下、厚生労働省のパンフレットに沿って、注目点を取り上げます。

2.有期労働契約の無期転換ルールと労働条件明示事項

有期労働契約の無期転換ルールと労働条件明示事項

(厚生労働省パンフレット「2024年4月から労働条件明示のルールが変わります」)

(1)就業場所・業務の変更の範囲の明示 【労働基準法施行規則5条の改正】

 全ての労働契約の締結と有期労働契約の更新のタイミングごとに、就業場所・業務の変更の範囲の明示が必要になります。具体的には、「雇い入れ直後」の就業場所・業務の内容に加え、これらの「変更の範囲」についても明示が必要になります。「変更の範囲」とは、将来の配置転換などによって変わり得る就業場所・業務の範囲を指します。
 「変更の範囲」が多岐に亘る場合、どこまで詳細に労働条件通知書に載せる必要があるのでしょうか。現在厚生労働省が示している労働条件通知書の改正イメージ【別表】でも、変更の範囲の具体例は示されていません。
 この点、厚生労働省の見解では「会社の定める場所」や「会社の定める業務」といった表記でもよいということです(労働関係法課へ確認)。もっとも、「変更の範囲」については、就業規則等への記載や説明ができるようにしておくべきでしょう。

(2)更新上限の明示等

①更新上限の明示等【労働基準法施行規則5条の改正】

 全有期労働契約の締結と契約更新のタイミングごとに、更新上限(有期労働契約の通算契約期間または更新回数の上限)の有無とその内容の明示が必要になります。

②更新上限を新設・短縮する場合の説明【雇止め告示の改正】

 以下のいずれかの場合は、その理由を有期契約労働者にあらかじめ(更新上限の新設・短縮をする前のタイミングで)説明することが必要になります。

  1. 最初の契約締結より後に更新上限を新たに設ける場合
  2. 最初の契約締結の際に設けていた更新上限を短縮する場合

「有期契約労働者の雇止めや契約期間について定めた厚生労働大臣告示」(有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準。以下「雇止め告示」という)

(3)無期転換申込機会の明示【労働基準法施行規則5条の改正】

 「無期転換申込権」が発生する更新のタイミングごとに、無期転換を申し込むことができる旨(無期転換申込機会)の明示が必要になります。
 初めて無期転換申込権が発生する有期労働契約が満了した後も有期労働契約を更新する場合は、更新のたびに、無期転換申込機会の明示が必要になります。

(4)無期転換後の労働条件の明示等

①無期転換後の労働条件の明示 【労働基準法施行規則5条の改正】

 「無期転換申込権」が発生する更新のタイミングごとに、無期転換後の労働条件の明示が必要になります。こちらも上記3.と同様、更新のたびに無期転換後の労働条件の明示が必要になります。

②均衡を考慮した事項の説明 【雇止め告示の改正】

 「無期転換申込権」が発生する更新のタイミングごとに、無期転換後の賃金等の労働条件を決定するに当たって、他の通常の労働者(正社員等のいわゆる正規型の労働者及び無期雇用フルタイム労働者)とのバランスを考慮した事項(例:業務の内容、責任の程度、異動の有無・範囲など)について、有期契約労働者に説明するよう努めなければならないこととなります。
なお、労働契約法3条2項において、労働契約は労働者と使用者が就業の実態に応じて均衡を考慮しつつ締結又は変更すべきものとされています。

3.裁量労働制に関する改正

(1)裁量労働制の導入・継続に関する新たな手続

 令和6年4月1日以降、新たに、又は継続して裁量労働制を導入するためには、「労使協定」(専門型の場合)または「労使委員会の運営規程」(企画型の場合)に、追加事項を入れ込むことが必要になりました。

 具体的には、裁量労働制を導入する全ての事業場で、必ず、以下の追加をした上で、労働基準監督署に協定届・決議届の届出を行う必要があります。裁量労働制を継続導入する事業場では令和6年3月末までに(新たに導入・適用の場合は導入・適用するまでに)、協定届・決議届の届出しなければなりません。

  1. 門業務型裁量労働制の労使協定に下記①を追加すること
  2. 企画業務型裁量労働制の労使委員会の運営規程に下記②③④を追加後、決議に下記①②を追加すること

  1. 本人同意を得る・同意の撤回の手続きを定める【専門型】【企画型】
  2. 労使委員会に賃金・評価制度を説明する【企画型】
  3. 労使委員会は制度の実施状況の把握と運用改善を行う【企画型】
  4. 労使委員会は6か月以内ごとに1回開催する【企画型】
  5. 定期報告の頻度が変わります【企画型】

 専門型を適用する企業が比較的多いので、ここでは、専門型に関する➊について説明いたします。
 本人同意を得ることや、同意をしなかった場合に不利益取り扱いをしないことを労使協定に定めます。また、同意の撤回の手続きと、同意とその撤回に関する記録を保存することを労使協定に定める必要があります。
 専門型の場合、改正前は本人同意が不要であったため、これまで専門型を適用していた企業では同意をとっていないことが一般的です。しかし、改正後は労使協定に本人同意を得ることが入るため、改正前から専門型を適用している企業においても、新たに同意を得る必要があるということです(厚生労働省労働基準局労働条件政策課へ確認)。

裁量労働制の導入・継続に関する新たな手続

(厚生労働省パンフレット「裁量労働制の導入・継続には新たな手続が必要です」)

(2)専門業務型裁量労働制の業務の追加

 専門業務型裁量労働制の業務は限定列挙され、19業務ありました。この業務に「銀行又は証券会社における顧客の合併及び買収に関する調査又は分析及びこれに基づく合併及び買収に関する考案及び助言の業務」が追加されることになりました。

※なお、改正の詳細について、厚生労働省は施行日までにパンフレット等で詳細を示す予定があるということですので、追加情報が出ましたら報告させていただきます。

【別表】厚生労働省 労働条件通知書の改正イメージ

厚生労働省 労働条件通知書の改正イメージ
厚生労働省 労働条件通知書の改正イメージ