本年10月に産後パパ育休がスタートします。規程や労使協定の整備のほかに、男性の育児休業について、会社がどのような対策を講じていけばよいのか教えて下さい。

男性育休取得を促進する目的とその周知、男性育児休業取得目標、推奨する取得期間、業務体制、人事評価制度の見直しなど、具体的な運用の検討が必要になります。

1.出生時育児休業(産後パパ育休)の創設

 本年4月より、本人又は配偶者が妊娠・出産したことを申し出た労働者に対し、個別に育児休業制度等について周知し、取得の働きかけをするよう事業主に義務付けることになりました。つまり、会社に勤務する男性が妻の妊娠を申し出た場合も対象になります。
また、10月からは、出生直後の時期に取得できる「出生時育児休業」が新たに設けられます。出産した女性は出生後8週以内は通常産後休業となりますので、男性が新制度の対象となることから、産後パパ育休と呼ばれています。産後パパ育休は、子の出生後8週間以内に最長4週間まで利用できる制度です。
 いずれも、男性育休の取得を促進しようとするものです。就業規則、個別周知の書式、労使協定の整備については、事務所レポートの第96号、第97号をご覧いただき、本号では、会社がどのような運用対策を講じるべきか、検討したいと思います。

2.調査結果から見る男性育休取得促進の目的の整理

(1)会社のメリット

①女性活躍推進

 厚生労働省の調査によると、2022年度の育児休業取得率は、女性は81.6%、男性は12.65%となっています。男性の取得率は、2019年度の7.48%に比べるとかなり増加したと言えますが、女性に比べるとまだまだ低いのが現状です。
このことは、家庭や職場における性別役割分担意識が根強く残っていることの表れと考えます。女性は働いても家庭での役割を優先し、男性は職場を優先するような意識が形成され、これが女性の業務へのモチベーション低下を招いたり、キャリアロスの原因になっていると考えます。実際に、管理職に占める女性の割合は、課長相当職以上で12.4%と伸び悩んでいるのが現状です。
男性育休取得促進を打ち出すことは、会社が性別役割分担意識を解消していくことの強いメッセージとなり、女性活推進策にもなります。

(厚生労働省「令和2年度雇用均等基本調査」)

(厚生労働省「令和2年度雇用均等基本調査」)

②採用やリテンションマネジメントにおける効果

 育児休業をとりたい男性は相当程度おり、若手ほど意識が高いようです。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの調査では「休暇の取得をした」が31.4%、「休暇の取得を希望したことがあるが、取得しなかった」は9.5%で、これらを合わせた取得希望者は40.9%となっています。一方「休暇の取得希望はなく、取得もしていない」が52.7%と、取得希望者と希望しない者の割合は比較的拮抗していると言えます(「平成29年度仕事と育児の両立に関する実態把握のための調査研究事業」平成30年1月)。
また、株式会社マイナビの新卒学生向けの調査では、「育児休業を取って積極的に子育てしたい」と回答した割合は、男性は51.5%、女性は71.4%と、男女とも大きく増加し、男子では14年卒の調査開始以来、初めて半数を超えています(「2021年卒マイナビ大学生のライフスタイル調査」)。
 男性育休取得に関して先行している国家公務員では、若手官僚の霞が関離れが深刻で、育休が取れないとさらに若手がやめてしまうことが懸念されており、施策の効果あってか、2020年度国家公務員の男性の育休取得率は29%(前年16.4%)と増加しています。
このように、男性育休が取得できるかどうかは、採用やリテンションマネジメントでも重要事項の一つになっています。

(内閣官房内閣人事局「国家公務員の育児休業等の取得状況(令和2年度)」)

(2)労働者のメリット

 共働き世帯は増加しています。2021年度は、共働き世帯が1,247万世帯、専業主婦世帯が566万世帯と、働く世帯の7割近くが共働き世帯になっています(総務省統計局「労働力調査(詳細集計)(年平均)」)。
夫が家事育児を担うことは必須事項になっていると言えます。夫婦が協力して家事育児をすることで夫婦関係がよくなり家庭の安定も望めます。また、夫が育児参加することで、妻が職場復帰しやすくなり、妻のキャリアロス期間の短縮にもなります。
一方、男性の側からみても、育児休業期間が長くなるほど「会社への帰属意識が高まった」「会社に仕事でこたえたいと思うようになった」と回答する割合が高くなっており、男女双方とも、モチベーション向上やキャリア形成にメリットがあると言えます(前掲・三菱UFJリサーチ&コンサルティングの調査)。

(3)目的の整理

 以上のように男性育休取得の促進は、労使双方にメリットがあると言えます。加えて、法改正により、男性育休取得率はさらなる向上が見込まれます。新卒学生が男性育休取得率も一つの基準として、企業を選ぶ時代が来ていると言えます。経営陣は、自社にとっての男性育休取得のメリット・目的・方針を把握、整理しておく必要があるでしょう。また、目的・方針は従業員に周知することも重要です。

3.実務対応策

(1)男性育児休業取得目標、取得期間、業務体制

 男性育児休業取得目標をどこにおくかは企業によって様々ですが、性別役割分担意識を無くす一番強いメッセージとなるのは、男性育児休業取得率を100%におく方法です。全員がとるようにすることで職場の意識改革を行います。一方で、全員がとろうとすると、取得期間が短くなってしまう従業員も出てきますので、自社にどのようなやり方が適しているのか検討が必要です。
また、人員不足で業務が回らないといった声があがるかもしれませんが、新型コロナウイルスで相当期間、休職者が出る中でのマネジメント経験をもつ管理職も多くなったと思います。この経験は、育児休業にも活かされます。ましてや、育児休業は事前にとる時期が分かるため、計画を立てやすく、コロナ対応よりマネジメントしやすいとも言えるでしょう。
また、メンバーが欠けても業務が回せる体制作りのため、業務効率化、業務配分を適宜変更できるよう属人的な仕事の見直しなど、これを契機に働き方改革を行うことも考えられます。
 推奨する取得期間は、各企業の制度や業務の状況にもよります。例えば、社会保険料免除要件の一つ(2週間以上育休を取得する場合)を参考に、最低2週間を一つの目安としたり、賞与の免除要件(1ヵ月を超えること)を参考に1ヵ月超とするのも一考です。育休取得率を重視し、いきなり長期間でなくまずは短期間でトライしてみてもよいでしょう。
また、育休中の収入の低下を心配するケースもあります。企業独自の有給の配偶者出産休暇制度がある場合は、これと育児休業を組み合わせてもよいでしょう。また、社会保険料免除の要件も改正で拡大されることから、免除を受けつつ、育児休業給付金を受給すれば給与の約8割はカバーされるという試算もあります。育児休業をとった場合の収入シミュレーションも行ってみると良いでしょう。
4月施行の育児休業制度等の個別周知事項は、①育児休業・出生時育児休業制度、②休業の申出先、③育児休業給付、④社会保険料の取扱ですが、収入シミュレーションも個別周知事項に加え、労働者が取得期間を決められるようにするとよいと考えます。
 なお、国家公務員の男性の育児休業期間の分布は次の通りです。

(内閣官房内閣人事局「国家公務員の育児休業等の取得状況(令和2年度)」)

(2)人事評価制度の見直し

 育児休業中の評価をどのようにするかは、これまでも育児休業に関する相談事項の一つでした。これまでの評価方法としては次のようなものがあげられます。

  1. 休業直前の評価を適用する
  2. 中央値などの標準的な評価とする
  3. 休業期間は最低評価とする
  4. 休業期間は評価しない

 実務上、②にしている企業も多いかもしれませんが、②や③で昇格基準に「2年連続A以上」等の設定していて、育児休業取得で連続Aが途絶えたら一からやり直しという制度の場合は、これを機会に見直すことをお勧めします。収入や評価の低下は、男性が育休取得をためらう大きな要因となっていますし、制度変更することで女性のモチベーション向上の可能性があります。
また、国家公務員の評価では、管理職の業務目標のなかに、部下の育児休業などの取得の目標を盛り込むことになっており、これが男性取得率の向上につながっているようです。管理職の評価項目にこのような項目をいれてもよいと考えます。
併せて、評価者研修等で、人事評価制度を正しく理解させることも重要です。育休を取得した者について、誤って低く評価することのないよう、教育が必要です。もし、正しく評価した結果、育児休業を取得した者の評価が下がる場合は、その理由を「育児休業取得が理由ではなく、○○の点ができておらず低い評価になった」との説明が必要です。
男性従業員の間では、育休をとると評価が下がると思い込んでいるケースもあります。今年4月施行の育児休業制度等の個別周知において、育児休業中の人事評価制度についても、併せて周知するとよいでしょう。


中小企業(101人以上)のパートの社会保険の適用が拡大

 第84号のレポートでもお知らせしましたが、本年10月より、「被保険者数が101人以上の企業」で、パートの社会保険の適用が拡大されます。これまではいわゆる4分の3基準(週所定労働時間が30時間など)を満たしたパートが社会保険の対象でしたが、改正後は次のいずれにも該当するパートが社会保険(健保・厚生年金)の対象となります。

  1. 週の所定労働時間が20時間以上であること
  2. 2か月以内の期間を定めて使用される者であって、当該定めた期間を超えて使用されることが見込まれること
  3. 賃金の月額が8.8万円以上であること
  4. 学生ではないこと

 対象になりそうなパートには、事前に面談やアンケートにて、夫の健康保険の扶養の範囲内を希望するのか、それとも自ら社会保険料に加入して働きたいのか、希望を聴取するとよいでしょう。労働者にとっては、加入により社会保険料の負担は増えますが、手厚い厚生年金がもらえるというメリットがあります。
企業にとっては、社会保険料の負担増は経営計画に織り込む必要がありますが、社会保険に加入したパートをこれまでより活用することで、人手不足解消のメリットがあります。
アンケート様式などもございますので、対象となる企業様はご相談下さい。