Ⅰ 職場における労働衛生基準の改正

職場の環境整備に関して、どのような点が改正されるのでしょうか。

独立個室型の便所の設置による設置基準の緩和、休養室・休養所の運用などについて見直しが行われ、昨年12月に施行しています。また、事務所の照度基準についても改正が行われ、本年12月より施行されます。

職場における労働衛生基準の改正

1.労働衛生基準の改正【令和3年12月1日施行、照度基準は令和4年12月1日施行】

 多様な労働者の働きやすい環境整備への関心が高まるなど、社会状況の変化を踏まえ、次の通り、職場における労働衛生基準が改正されました。

  • 「事務所衛生基準規則及び労働安全衛生規則の一部を改正する省令」(令和3年厚生労働省令第188号)
  • 「事務所衛生規則」(昭和47年労働省令第43号)と「労働安全衛生規則」(昭和47年労働省令第32号)の一部運用見直し
  • 「事務所衛生基準規則及び労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行等について」(令和3年12月1日付基発1201第1号。以下「施行通達」という)

 

主な改正点について、施行通達及び厚生労働省のパンフレットに沿って、以下確認いたします。

2.照度基準の改正(事務所則第10条第1項関係)

 この改正は、照度不足の際に生じる眼精疲労や、文字を読むために不適切な姿勢を続けることによる上肢障害等の健康障害を防止する観点から、すべての事務所に適用されます。
 具体的には、照度基準が従来の3区分から2区分に変更され、一般的な事務作業は300ルクス以上、附属的な事務作業は150ルクス以上となります。

照度基準の改正(事務所則第10条第1項関係)

(厚生労働省パンフレット「ご存知ですか?職場における労働衛生基準が変わりました」)

【テレワークについて】

 令和3年3月に改定された「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」においては、「テレワークを行う作業場が、労働者の自宅等事業者が業務のために提供している作業場以外である場合には、事務所衛生基準規則(昭和47 年労働省令第43 号)、労働安全衛生規則(一部、労働者を就業させる建設物その他の作業場に係る規定)及び『情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン』(令和元年7月12 日基発0712 第3号)は一般には適用されないが、安全衛生に配慮したテレワークが実施されるよう、これらの衛生基準と同等の作業環境となるよう、事業者はテレワークを行う労働者に教育・助言等を行い、「自宅等においてテレワークを行う際の作業環境を確認するためのチェックリスト(労働者用)」を活用すること等により、自宅等の作業環境に関する状況の報告を求めるとともに、必要な場合には、労使が協力して改善を図る又は自宅以外の場所(サテライトオフィス等)の活用を検討することが重要である。」とされています。
 厚生労働省は、事務所衛生基準規則と情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドラインを参考に、自宅等でテレワークを行う際の作業環境整備のポイントをまとめていますので、テレワーク勤務者に周知しておくとよいでしょう。

厚生労働省HP「自宅等でテレワークを行う際の作業環境整備

(厚生労働省HP「自宅等でテレワークを行う際の作業環境整備」)

職場における労働衛生基準が変わりました

(厚生労働省パンフレット「職場における労働衛生基準が変わりました」)

3.便所の改正(事務所則第17条の2)

 新たに「独立個室型の便所」が法令で位置づけられました。「独立個室型の便所」とは、男性用と女性用に区別しない四方を壁等で囲まれた一個の便房により構成される便所です。
 便所を男性用と女性用に区別して設置するという原則は維持されますが、「独立個室型の便所」に関して、①「独立個室型の便所」を附加する場合の取扱いや②少人数の作業場の例外が設けられました。

(1)「独立個室型の便所」を附加する場合

 障害のある労働者への配慮や、高年齢労働者の利便性の改善等、便所に対するニーズは多様化しています。そこで、男性用便所と女性用便所を設置した上で、独立個室型の便所を設ける場合は、トイレの設置数を算定する際の設置基準が緩和されます。すなわち、独立個室型の便所を設ける場合は、設置基準の労働者数要件を、便所1個につき男女それぞれ10人ずつ減らすことができることになりました。

【便所の設置基準】-男性用と女性用に区別すること
  • 男性大便所の便房数 :同時に就業する男性労働者60人以内ごとに1個以上
  • 男性用小便所の箇所数:同時に就業する男性労働者30人以内ごとに1個以上
  • 女性用便所の便房数 :同時に就業する女性労働者20人以内ごとに1個以上

 下記のケースで、独立個室型便所を設けた場合、男性65人→55人、女性65人→55人とカウントして設置基準に当てはめることができるため、設置数が減ります。

ご存知ですか?職場における労働衛生基準が変わりました

(厚生労働省パンフレット「ご存知ですか?職場における労働衛生基準が変わりました」)

【独立個室型の便所】

独立個室型の便所

※車椅子使用者用便房やオストメイト対応の水洗器具を設けている便房からなる便所も上記要件を満たす場合は、独立個室型の便所に該当します。

(2)少人数の作業場における例外

 作業場に設置する便所については、作業場の規模にかかわらず男性用と女性用に区別して設けることが原則です。一方で、住居使用を前提として建築された集合住宅の一室を作業場として使用している場合など、便所が一箇所しか設けられておらず、建物の構造や配管の状況から、設置基準の全てを満たす便所を設けることが困難な場合があります。
  今回の設置基準の見直しでは、便所を男性用と女性用に区別して設けるという原則を維持しながら、同時に就業する労働者が常時10人以内の場合には、独立個室型の便所を設置した場合に限り、例外的に男女別による設置は要しないことになりました。

4.休養室・休養所

 常時50人以上または常時女性30人以上の労働者を使用する事業者は、休養室又は休養所を男性用と女性用に区別して設けなければなりません(労働安全衛生規則第618条)。これらは事業場において病弱者、生理日の女性等が一時的に使用するために設けられるものです。長時間の休養等が必要な場合は速やかに医療機関に搬送又は帰宅させることが基本であることから、随時利用できる機能が確保されていれば専用の設備である必要はありません。
 また、休養室又は休養所では体調不良の労働者が横になって休むことが想定されており、利用者のプライバシーと安全が確保されるよう、設置場所の状況用に応じた配慮が必要です。

  • 入口や通路から直視されないように目隠しを設ける
  • 関係者以外の出入りを制限する
  • 緊急時に安全に対応できる 

 空いているスペースを休養室として利用する場合は、直ちに利用できる体制を整えておきましょう。

(休養室等)
第六百十八条 事業者は、常時五十人以上又は常時女性三十人以上の労働者を使用するときは、労働者がが床することのできる休養室又は休養所を、男性用と女性用に区別して設けなければならない。

5.休憩の設備

 労働安全衛生法では、休憩設備の設置は努力義務です。休憩設備とは、休憩室、ソファ、ベンチ、椅子などをいいます(安衛則第613条)。一方、有害業務の場合、休憩設備の設置は義務です(同則第614条)。
この休憩設備について、事業場の実情やニーズに応じて、休憩スペースの広さや設備内容について衛生委員会等で調査審議、検討等を行い、その結果に基づいて設置することが望ましいこととされました。

(休憩設備)
第六百十三条 事業者は、労働者が有効に利用することができる休憩の設備を設けるように努めなければ ならない。

6.「休養室・休養所」と「休憩設備」について

 混同されがちな「休養室・休養所」と「休憩設備」ですが、前者は義務、後者は努力義務です。「休養室・休養所」がない企業は、会議室や簡易的に間仕切りを設けたスペースに、ソファや簡易ベッドを置くなどして、緊急時に備える方法があります。

Ⅱ 中小企業の月60時間超えの残業代の割増率の経過措置終了

 現在、1か月60時間を超える法定時間外労働に対しては50%以上の率で計算した割増賃金を支払うよう定められていますが、中小企業には適用が猶予されていました。
しかし、この猶予措置が終了することになり、2023年4月からは、中小企業も、1か月60時間を超える法定時間外労働に対しては50%以上の率で計算した割増賃金を支払わなければなりません。
該当する企業は、賃金規程の修正を行い、人件費の増加を見込んでおく必要があります。賃金規程の修正については、お声がけ下さい。
割増率を整理すると、次のようになります。

中小企業の月60時間超えの残業代の割増率の経過措置終了

(時間外労働…法定労働時間の超過、休日労働…法定休日の労働、深夜労働…午後10時~午前5時に労働)

【適用猶予されていた中小企業の範囲】

適用猶予されていた中小企業の範囲

(事業場単位ではなく、企業単位で判断されます。)