当社には、正社員のほかに、契約社員や定年後再雇用者などの有期労契約労働者がいます。住宅手当や皆勤手当は、正社員のみに支給しているのですが、有期契約労働者には支給しなくても問題ないでしょうか?

特段の理由もなく、有期労働契約だからというだけで有期労働契約者に一律支給しないとすることは問題になる可能性があります。例えば、正社員は転居を伴う配置転換の可能性があるため住宅手当を支払うが、有期労働契約者は転居を伴う配置転換を予定していないため支払わないといった合理的な説明できれば、差異があっても構わないと考えます。皆勤手当については、業務内容が同一の場合は、同一の支給を求められる可能性があります。

【1】労契法20条について争われた事例

 有期契約労働者と無期契約労働者との間で期間の定めがあることにより不合理に労働条件を相違させることを禁止する労契法の改正は、平成25年4月1日に施行されました。その後、無期契約労働者と有期契約労働者間の賃金等の相違がこの労働契約法20条に違反していないか裁判で争われた例が出てきました。この6月1日に最高裁判決が2件示され、大きな注目を集めています。いずれも、個別の賃金ごとに、その趣旨から不合理かどうか判断しています。今回はこれらの判例から読み解かれる実務対応を検討します。

【労働契約法】(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)

第二十条  有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。

【2】長澤運輸事件(最高裁第二小判・平成30年6月1日)

 Y社定年後、同社の有期契約の嘱託社員として再雇用されたトラック運転手3名Xらが、定年前と同じ業務なのに賃金を下げられたのは不当であり、正社員と同じ賃金が支払われるべきとして、Y社を訴えました。有期契約労働者の「職務の内容」並びに「職務の内容・配置の変更の範囲」が無期契約労働者と同一の事例です。地裁では、高年法の高年齢者雇用確保措置として、定年退職後に締結された労働契約であったとの事実をもって、直ちに特段の事情があるとは認められないとし、労働契約法20条により「無効である賃金の定めに関する部分については、これに対応する正社員就業規則その他の規定が適用される」として、正社員の就業規則に基づく賃金請求が認められました(東京地判平28.5.13労判1135-11)。しかし、高裁では覆り、最高裁も次のように高裁判決を是認しています。すなわち「事業主は、高年齢者雇用安定法により、60歳を超えた高年齢者の雇用確保措置を義務付けられており、定年退職した高年齢者の継続雇用に伴う賃金コストの無制限な増大を回避する必要があること等を考慮すると、定年退職後の継続雇用における賃金を定年退職時より引き下げること自体が不合理であるとはいえない。また、定年退職後の継続雇用において職務内容やその変更の範囲等が変わらないまま相当程度賃金を引き下げることは広く行われており、Y社が嘱託乗務員について正社員との賃金の差額を縮める努力をしたこと等からすれば、Xらの賃金が定年退職前より2割前後減額されたことをもって直ちに不合理であるとはいえず、嘱託乗務員と正社員との賃金に関する労働条件の相違が労働契約法20条に違反するということはできない。」とされました。
 一方、地裁、高裁ともに個々の賃金項目については検討されませんでしたが、最高裁は「有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たっては、両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく、当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきものと解するのが相当である」としました。その上で、個々の賃金項目について検討を加え、精勤手当及び超勤手当(時間外手当)については、その趣旨から不合理であると判断しました。すなわち、Y社の精勤手当は「従業員に対して休日以外は1日も欠かさずに出勤することを奨励する趣旨で支給されるものであるということができる。そして、Y社の嘱託乗務員と正社員との職務の内容が同一である以上、両者の間で、その皆勤を奨励する必要性に相違はないというべきである」と述べています。超勤手当については、その計算に精勤手当を含んでいないことを不合理としました。一方で、能率給、職務給、住宅手当、家族手当、役付手当、賞与については不合理ではないとしています。

【3】ハマキョウレックス事件(最高裁第二小判・平成30年6月1日)

 この事件は、Y社に勤務する配送ドライバーの契約社員Xが、正社員とXとの間で、無事故手当、作業手当、給食手当、住宅手当、皆勤手当、通勤手当、家族手当、賞与、定期昇給及び退職金に相違があることは労働契約法20条に違反しているなどと主張して、差額の支払を求めた事例です。職務の内容に違いはありませんが、職務の内容・配置の変更の範囲(正社員は広域異動)に関しては違いがあり、正社員には等級役職制度が設けられており、職務遂行能力に見合う等級役職への格付けを通じて、将来、上告人の中核を担う人材として登用される可能性があるのに対し、契約社員は、就業場所の変更や出向は予定されておらず、将来、そのような人材として登用されることも予定されていません。
 高裁では、住宅手当と皆勤手当が不合理でないと棄却していましたが(無事故手当、給食手当、業務手当、通勤手当という4つの手当については請求認容)、最高裁では4つの手当については結論を維持しつつ、皆勤手当については棄却し、不合理であるとしました。最高裁は「この皆勤手当は、Y社が運送業務を円滑に進めるには実際に出勤するトラック運転手を一定数確保する必要があることから、皆勤を奨励する趣旨で支給されるものであると解されるところ、Y社の乗務員については、契約社員と正社員の職務の内容は異ならないから、出勤する者を確保することの必要性については、職務の内容によって両者の間に差異が生ずるものではない。また、上記の必要性は、当該労働者が将来転勤や出向をする可能性や、上告人の中核を担う人材として登用される可能性の有無といった事情により異なるとはいえない。」との事情を示しています。

【4】住宅手当について

 今国会に提出された働き方改革関連法案に関して、「同一労働同一賃金ガイドライン案」(以下「ガイドライン案」という)が示されています。ガイドライン案では、例えば、精皆勤手当について「無期雇用フルタイム労働者と業務内容が同一の有期雇用労働者又はパートタイム労働者には同一の支給をしなければならない。」となっています。上述のように、長澤運輸事件もハマキョウレックス事件も、職務内容が全く同じであったこととその趣旨から、皆勤手当に相違を設けることは不合理であるとされました。
 一方、住宅手当については、ガイドライン案には記述がありませんでした。しかし、裁判所は、それぞれ次のように判断しています。

【長澤運輸事件】(前掲・最高裁)⇒○相違は不合理ではない。

 Y社における住宅手当及び家族手当は、その支給要件及び内容に照らせば、前者は従業員の住宅費の負担に配する補助として、後者は従業員の家族を扶養するための生活費に対する補助として、それぞれ支給されるものであるということができる。…Y社における正社員には、嘱託乗務員と異なり、幅広い世代の労働者が存在し得るところ、そのような正社員について住宅費及び家族を扶養するための生活費を補助することには相応の理由があるということができる。他方において、嘱託乗務員は、正社員として勤続した後に定年退職したものであり、老齢厚生年金の支給を受けることが予定され、その報酬比例部分の支給が開始されるまではY社から調整給を支給されることとなっているものである。

【ハマキョウレックス事件】(前掲・最高裁)⇒○相違は不合理ではない。

 この住宅手当は、従業員の住宅に要する費用を補助する趣旨で支給されているものと解されるところ、契約社員については就業場所の変更が予定されていないのに対し、正社員については、転居を伴う配転が予定されているため、契約社員と比較して住宅に要する費用が多額となり得る。

【日本郵便(時給制契約社員ら)事件】(東京地判平29.9.14労判1164-5)
 ⇒×旧一般職との関係では不合理ではないが、新一般職との関係では契約社員には全く支払われていないという点で不合理である。(ただし、正社員と同額でなくてもよい)

 転居を伴う可能性のある配置転換等が予定されている旧一般職に対し、住宅に係る費用負担が重いことを考慮して住居手当を支給することは一定の合理性が認められる。また、正社員である旧一般職に対して住宅費の援助をすることで優位な人材の獲得、定着を図ることも人事上の施策として相応の合理性が認められる。これに対し、転居を伴う可能性のある配置転換等が予定されていない新一般職に住居手当が支給され、同じく転居を伴う配置転換等のない契約社員に全く支給されないことは、上記人事施策上の合理性等の事情を考慮しても、合理的な理由のある相違とはいえない。

【5】実務対応~賃金、手当をどのように設計すればよいのか

 日本郵便事件(前掲・東京地判)は、職務の内容、職務の内容・配置変更の範囲は異なる事例です。労働契約法20条の条文に照らせば、その主要要素を満たさないため、会社が勝訴しそうに思えますが、結局の所、個々の賃金の趣旨等から判断されいくつもの手当の相違が否定されています。
 いずれの判例も、各手当については極めて個別的判断となっており、地裁、高裁、最高裁で判断が異なっていたように、裁判官によって意見が分かれる可能性があります。従って、ガイドライン案にある賃金や手当についても個別具体的に検討が必要になりますし、住宅手当のようにガイドライン案に無いからといって、簡単に差異を設けていいということにはならないと考えます。今後、企業は、賃金や手当について、なぜ有期労働契約者と無期労働契約者で相違があるのか、説明できるようにしておく必要があります。
 今回の最高裁判決は、手当については同一にすべきとの傾向を示していますが、基本給については明確に述べてはいません。この点、ガイドライン案でも、基本給に関しては「同じ制度であれば同じ賃金を払う」という考え方ですので、制度が違うこと自体は可能とされています。例えば、正社員は職能資格給であるのに対し、非正規社員は現在の職務の習熟度合いで払うということが許容されます。つまり、賃金制度が異なることに関し、説明できればよいと考えます。一方、手当については、原資に限りがある中では、一律に非正規社員にも支給するのは困難です。しかし、不安定な位置づけの手当があれば、そのまま残すのはリスクがあると言えます。このような場合は、例えば、手当を基本給・賞与に組み入れ、職務、異動、責任人事評価等についてその違いを明確にしておくのも一つの方法でしょう。