残業をさせた場合に、割増賃金を支払わなければならないと聞きました。当社の所定労働時間は、7時間です(午前9時~午後5時、休憩1時間除く)。割増賃金は、どのように払えばよいのでしょうか?

残業には、法定内残業と法定外残業(法定時間外労働)があり、法定内残業には、原則として労基法の割増賃金請求権はありません。従って、貴社の場合は、8時間を超えたら25%の割増賃金を支払う必要があります。7時間~8時間までは通常の賃金を支払うことが可能ですが、会社と従業員間の取り決めによります。例えば就業規則で所定労働時間を超えたら25%の割増賃金を支払うと定めた場合は、この部分についても25%の割増が必要です。
また、時間外労働が60時間を超える場合の割増率は、50%以上に引き上げられていますが、今の所、中小企業は適用が猶予されています。

【1】労働基準法の定める割増賃金と代替休暇

(1)割増賃金の計算式

 労働基準法は、休憩時間を除く法定労働時間を原則として1週40時間以内、1日8時間以内と定めています。この法定労働時間を超える時間外労働と、午後10時から午前5時までの深夜労働、週1日の法定休日労働(変形週休制の場合4週間を通じ4日の休日)をさせる場合は、割増賃金を支払わなければなりません(労基37)。
 具体的には、「通常の労働時間または労働日の賃金の計算額」に割増率で計算したものが割増賃金となります。

◆1か月の平均所定労働時間の算出式は次のとおりです。
(365日-所定休日)×1日の所定労働時間÷12か月

◆割増賃金の計算の諸手当から除外できる手当は次のとおりです(労規則21)。

家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当、臨時に支払われる賃金、1か月を超える期間毎に支払われる賃金

 但し、全従業員に一律定額で支給(例:住宅手当を○万円一律支給)する場合は、除外できません。これらの手当は、名称にかかわらず実質から判断されます。
 また、除外できる上記の手当は限定的に列挙されているものであり、原則としてこれらに該当するもの以外を除外することはできません。ただし、後述の固定残業手当は、それ自体が時間外割増賃金ですので、除外することができます(Q3 固定残業手当参照)。

(2)割増率

<割増率>

割増対象 割増率
時間外労働 25%以上
時間外労働45時間超~60時間以下 25%以上
(労使で合意した割増率)
時間外労働60時間超 ※中小企業は除く 50%以上
休日労働 35%以上
深夜労働 25%以上
時間外労働+深夜労働 50%以上
時間外労働60時間超+深夜労働 75%以上
休日労働+深夜労働 60%以上
休日労働+時間外労働 35%以上

(時間外労働…法定労働時間の超過、休日労働…法定休日の労働、深夜労働…午後10時~午前5時に労働)
ただし、1か月60時間を超える法定時間外労働に対する50%の割増率は、中小企業については当分の間猶予されていますが、現在、政府が適用猶予の終了を検討しています。

<中小企業の範囲>

業種 資本金の額
または出資の総額
  常時使用する
労働者数
小売業 5000万円以下 または 50人以下
サービス業 5000万円以下 100人以下
卸売業 1億円以下 100人以下
その他 3億円以下 300人以下

※事業場単位ではなく、企業単位で判断されます。

(2)代替休暇

 1か月60時間を超える法定時間外労働に対する50%の割増賃金のうち法改正による25%の引上げ分の割増賃金の代わりに有給の休暇を付与する制度(代替休暇)を労使協定で設けることができます。代替休暇を取得した場合、その取得した代替休暇に対して支払われた賃金額に対応した時間外労働時間数に係る引上げ分(25%分)の割増賃金の支払が不要となります。
 しかし、管理が煩雑なこともあり、実務的には、代替休暇で運用している企業は、あまり無いように思います。

【3】法定内残業の割増賃金の取り扱い

労働時間は、以下の通り、分類することができます。

  • 所定労働時間…労働契約、就業規則、労働協約などによって定められた労働すべき時間のことであり、始業時間から終業時間までの時間から休憩時間を除いた時間です。
  • 法定内残業…所定労働時間を超え、かつ法定労働時間内に労働することです。「所定外労働」等とも呼ばれます。
  • 法定外残業…法定労働時間を超えた時間に労働することです。「時間外労働」や「法定時間外労働」等とも呼ばれます。
  • 残業…法的な定義はありませんが、一般的には法定内残業や法定外残業を含めたものを言います。

 法定内残業には、労働基準法の割増賃金請求権はありません。例えば、次の法定内残業の例を見てみましょう。
 始業時刻:9時、終業時刻:17時(休憩12時~13時)
 この場合で、20時まで3時間残業したと仮定すると、以下のとおりになります。

17時から18時までの1時間は、法定労働時間内ですので、労働基準法の定める割増率を乗じて算出される割増賃金ではなくても良いことになります。
法定内残業の手当については、就業規則、賃金規程、労働協約等(以下、就業規則等といいます)における賃金計算上の定めによるとされています。従って、例えば割増していない額、つまり通常の労働時間の賃金の1.0倍の手当を支払う方法も可能です。

【4】割増賃金の端数処理

 割増賃金の計算をするときの端数処理については、次のように取り扱ってもよいと定められています。

  1. 1か月における時間外労働、休日労働及び深夜業の各々の時間数の合計に1時間未満の端数がある場合に、30分未満を切り捨て、それ以上を1時間に切り上げること。
  2. 1時間当たりの賃金額及び割増賃金額に円未満の端数が生じた場合は、50銭未満の端数を切り捨て、それ以上を1円に切り上げること。
  3. 1か月における時間外労働、休日労働、深夜業の各々の割増賃金の総額に、1円未満の端数が生じた場合は、②と同様に取り扱うこと。
    (昭63.3.14基発150号)

具体例をあげると以下のようになります。

  1. 1か月の時間外労働時間数の合計が、10時間23分の場合、10時間に切り捨て、10時間33分の場合11時間に切り上げます。
  2. 割増賃金計算の元となる1時間当たりの単価が、1,200.45円の場合、1,200円に切り捨て、1,200.55円の場合、1,201円に切り上げます。
  3. 1か月の割増賃金の総額が、1万5,000.45円の場合、1万5,000円に切り捨て、1万5,000.55円の場合、1万5,001円に切り上げます。

【規定例】
○就業規則

(時間外勤務手当)
第A条

  1. 会社の指示により、社員が法定労働時間を超えて勤務した場合に時間外勤務手当を支給する。
  2. 時間外勤務手当支給の対象となる勤務時間は、食事または喫茶等のために要した休憩時間は含まない。
  3. 時間外勤務手当の額は以下の計算式に基づくものとする。なお、この場合の1か月は、毎月1日を起算日とする(賃金計算期間と同じとする)
    (1)1か月45時間以下の時間外労働について
    (基本給+資格手当)÷1ヵ月平均所定労働時間×1.25×時間外労働時間数
    (2)1か月45時間超60時間以下の時間外労働について
    (基本給+資格手当)÷1ヵ月平均所定労働時間×1.25×時間外労働時間数
     ※1
    (3)1か月60時間超の時間外労働について
    (基本給+資格手当)÷1ヵ月平均所定労働時間×1.50×時間外労働時間数
  4. 前項の1ヵ月平均所定労働時間は、160時間として算定する。第B条、第C条も同様とする。※2

(休日勤務手当)
第B条

  1. 会社の指示により、社員が休日に勤務した場合には、休日勤務手当を支給する。
  2. 休日勤務手当支給の対象となる勤務時間は、食事または喫茶等のために要した休憩時間は含まない。
  3. 法定休日に関する休日勤務手当の額は以下の計算式に基づくものとする。
    (基本給+資格手当)÷1ヵ月平均所定労働時間×1.35×休日労働時間数
  4. 法定外休日に関する休日勤務手当の額は以下の計算式に基づくものとする。
     (1)法定外休日労働時間数と時間外労働時間数の合計が1ヵ月60時間未満
    (基本給+資格手当)÷1ヵ月平均所定労働時間×1.25×休日労働時間数
     (2)法定外休日労働時間数と時間外労働時間数の合計が1ヵ月60時間以上
    (基本給+資格手当)÷1ヵ月平均所定労働時間×1.50×休日労働時間数
  5. 振替休日を付与した場合は、休日に勤務したとしても休日勤務手当は支給しない。

(深夜勤務手当)
第C条

  1. 会社の指示により、社員が午後10時から午前5時までの間に勤務した場合に深夜労働手当を支給する。
  2. 深夜手当の額は以下の計算式に基づくものとする。
    (基本給+資格手当)÷1ヵ月平均所定労働時間×0.25×深夜労働時間数
  3. 時間外労働が深夜に及んだ場合は、時間外労働手当の額に深夜労働手当の額が加算されることになる。この場合は、以下の計算式に基づくものとする。
    (基本給+資格手当)÷1ヵ月平均所定労働時間×1.50×時間外労働時間数
  4. 休日労働が深夜に及んだ場合は、休日労働手当の額に深夜労働手当の額が加算されることになる。この場合は、以下の計算式に基づくものとする。
    (基本給+資格手当)÷1ヵ月平均所定労働時間×1.60×休日労働時間数
  5. 時間外労働又は法定外休日労働が深夜に及び、深夜の時間帯の労働時間が時間外労働及び法定外休日労働の合計1か月60時間を超えている場合は、以下の計算式に基づくものとする。
    (基本給+資格手当)÷1ヵ月平均所定労働時間×1.75×60時間超の時間外・法定外休日労働時間数

※1労使で合意した割増率を規定します。
※21か月平均所定労働時間を固定して規定する方法です。1か月平均所定労働時間が、年によって変動することがなく計算が簡便ですが、労基法が定める計算により算出されたものより、労働者に有利に定める必要があります。