最近、「働き方改革」という言葉をよく聞きますが、どのようなことが改正されるのでしょうか?

「働き方改革関連法案」には、大きく分けて2つの分野があります。
一つ目は、長時間労働対策の「残業時間の上限規制」と、時間ではなく成果で評価する「脱時間給制度」です。
二つ目は、正社員と非正規社員の待遇差を無くそうとする「同一労働・同一賃金」です。

【1】働き方改革関連法案の概要

「働き方改革関連法案」は、政府が今国会の最重要法案に掲げています。しかし、首相が取り上げた裁量労働制の調査結果に不備があり、野党の追及により裁量労働制の改正は先送りになってしまうなど、法案提出前から野党の対決姿勢が鮮明になっています。
 ところで、「働き方改革関連法案」は、大きく分けて①長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現等と②雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保の2つの分野があります。今回は、①の法律案に注目します。

(出典:厚生労働省HP「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案要綱(労働政策審議会29.9.15答申)の概要」について)

 ①の大きな改正点には、いわゆる「残業時間の上限規制」と「脱時間給制度」があります。「脱時間給制度」は、時間ではなく成果で評価する制度で、経団連などが導入を求めてきました。2015年に法案が国会に提出されましたが、野党などが「残業代がゼロになる」と反発し、審議が棚ざらしになっていました。昨年、連合が妥協を図り、政府に制度案の修正として、「年104日以上の休日確保」の義務付けを求めましたが、連合は土壇場で傘下組織の反発にあい方針を転換、経団連を含めた政労使合意は見送られました。それでも政府は連合案を丸のみし、働き方改革関連法案に脱時間給の新制度を盛り込んでいます。
 一方、「残業時間の上限規制」は、連合の悲願でもありました。当初、連合にとって、100時間の残業容認は「到底あり得ない」としていましたが、100時間「未満」とすることで、政労使が折り合いをつけました。
 このように、政府は、法案作成にあたり連合案を受け入れることで、向かい風をできるだけ抑えようとしました。また、「残業時間の上限規制」と「脱時間給制度」の改正を一本化することで、「残業時間の上限規制」を盾に、「脱時間給制度」を通す意図も見えます。しかし、前述のように野党は反発を強めており、働き方改革関連法案の行方は現段階では不透明です。とはいえ「時間外労働の上限規制」などは、社会的要請もあり長時間労働対策は労働基準監督署が指導を強めるとしていますので、対策を検討しておくべきでしょう。

【2】労働時間に関する制度の見直し

(1)時間外労働の上限規制について

 これまで、36協定締結時の上限(月45時間、年360時間)は、強制力のない厚生労働大臣告示でしたが、上限を法律に明記し、上限を超える時間外労働をさせると、特例を除き罰則が課せられます。また、特別条項を締結する場合も、年720時間、単月100時間未満(休日労働含む)、複数月平均80時間(休日労働含む)が限度となります。現在、特別条項を締結する際、月70~80時間を超えるような時間を設定している企業は、残業圧縮策を検討しておくべきでしょう。

【上限規制の基本的枠組み】
(1) 上限規制の基本的枠組み
現行の時間外限度基準告示を法律に格上げし、罰則による強制力を持たせるとともに、従来、上限無く時間外労働が可能となっていた臨時的な特別の事情がある場合として労使が合意した場合であっても、上回ることのできない上限を設定することが適当である。

  • 時間外労働の上限規制は、現行の時間外限度基準告示のとおり、労働基準法に規定する法定労働時間を超える時間に対して適用されるものとし、上限は原則として月 45 時間、かつ、年 360 時間とすることが適当である。かつ、この上限に対する違反には、以下の特例の場合を除いて罰則を課すことが適当である。また、一年単位の変形労働時間制(3か月を超える期間を対象期間として定める場合に限る。以下同じ。)にあっては、あらかじめ業務の繁閑を見込んで労働時間を配分することにより、突発的なものを除き恒常的な時間外労働はないことを前提とした制度の趣旨に鑑み、上限は原則として月 42 時間、かつ、年 320 時間とすることが適当である。
  • 上記を原則としつつ、特例として、臨時的な特別の事情がある場合として、労使が合意して労使協定を結ぶ場合においても上回ることができない時間外労働時間を年 720 時間と規定することが適当である。
    かつ、年 720 時間以内において、一時的に事務量が増加する場合について、最低限、上回ることのできない上限として、

    1. 休日労働を含み、2か月ないし6か月平均で 80 時間以内
    2. 休日労働を含み、単月で 100 時間未満
    3. 原則である月 45 時間(一年単位の変形労働時間制の場合は 42 時間)の時間外労働を上回る回数は、年6回まで
      1. とすることが適当である。なお、原則である月 45 時間の上限には休日労働を含まないことから、①及び②については、特例を活用しない月においても適用されるものとすることが適当である。

(平成29年6月5日付 労働政策審議会 建議)

(2)中小企業における月60時間超の時間外労働に対する割増賃金の見直し

 これまで中小企業には適用猶予されていた月60時間超の時間外労働が5割増になる割増率について、猶予措置が廃止されます。中小企業にとっては、大きな負担になりますので、実施までに無駄な残業を減らすような努力が必要です。

(3)一定日数の年次有給休暇の確実な取得

 10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し、5日について、毎年、会社が時季を指定して与えなければならないとされます。ただし、労働者の時季指定や計画的付与により取得された年休の日数分については指定の必要がありません。
 改正後は、計画年休を導入していない企業や消化率の低い企業においては、会社が年休の時季を指定する必要が出てきます。例えば、夏季休暇や年末年始休暇に年休を追加して取得させる制度や、祝日の隙間を埋める「ブリッジ休暇」、土日・祝日と年休をつなげる「プラスワン休暇」の導入などが考えられます。

(4)フレックスタイム制の見直し

 改正後は、清算期間の上限が、現行の1か月から3か月に延長できることから、月をまたいで清算期間を設定し、その総労働時間を定めることができるようになると想定されます。ただし、清算期間内の1か月ごとに1週平均 50 時間を超えた労働時間については、当該月における割増賃金の支払い対象となりますので、新制度を取り入れた場合、管理が煩雑になることもあるでしょう。

2 フレックスタイム制の見直し
フレックスタイム制の下で、子育てや介護、自己啓発など様々な生活上のニーズと仕事との調和を図りつつ、メリハリのある働き方を一層可能にするため、その導入及び活用の促進に向けた労使の取組に対する支援策を講じるとともに、より利用しやすい制度となるよう、以下の見直しを行うことが適当である。
(1) 清算期間の上限の延長
・ フレックスタイム制により、一層柔軟でメリハリをつけた働き方が可能となるよう、清算期間の上限を、現行の1か月から3か月に延長することが適当である。
・ 清算期間が1か月を超え3か月以内の場合、対象労働者の過重労働防止等の観点から、清算期間内の1か月ごとに1週平均 50 時間(完全週休2日制の場合で1日あたり2時間相当の時間外労働の水準)を超えた労働時間については、当該月における割増賃金の支払い対象とすることが適当である。
・ 制度の適正な実施を担保する観点から、清算期間が1か月を超え3か月以内の場合に限り、フレックスタイム制に係る労使協定の届出を要することとすることが適当である。

(出所:平成27年2月13日付 労働政策審議会 建議)

(5)特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)の創設

 改正により、一定の年収要件(1075万円)を満たし、職務の範囲が明確で高度な職業能力を有する労働者を対象として、36協定の締結や時間外・休日・深夜の割増賃金の支払義務等の適用を除外する新たな労働時間制度が設けられます。
 具体的には、金融商品の開発業務、金融商品のディーリング業務、アナリストの業務(企業・市場等の高度な分析業務)、コンサルタントの業務(事業・業務の企画運営に関する高度な考案又は助言の業務)、研究開発業務等を念頭に、法案成立後、改めて審議会で検討の上、省令に規定される予定です。
 今回の改正では対象となる労働者は非常に限定的ですが、新制度の導入は将来に向けた足がかりになるのではないかと思われます。

(6)勤務間インターバル

 改正により、労働時間等設定改善法第2条(事業主等の責務)を改正し、事業主は、前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定時間の休息の確保に努めなければならない旨の努力義務が課されます。

【3】施行日

 現時点では、施行時期は最短平成32年4月とされています(2月22日付日経新聞)。同記事によると、中小企業は残業規制を32年4月、同一賃金を33年4月としました。大企業は、残業規制が31年4月、同一賃金が32年4月とされています。

(出所:厚生労働省HP「労働時間に関する制度の見直し」)