最近の社会保険に関する法改正等があれば教えてください。

本年1月以降、次の健康保険、年金制度、雇用保険等の改正が施行されます。

  1. 健康保険法改正(令和4年1月1日)
  2. 社会保険加入時の事業主への年金手帳等の提出不要(令和4年4月1日)
    1. 傷病手当金の支給期間通算化
    2. 任意継続について
      ・任意脱退が可能になった
      ・健康保険組合の保険料算定基礎の変更
    3. 出産育児一時金の支給額の内訳変更
  3. 「雇用保険マルチジョブホルダー制度」施行(令和4年4月1日)
  4. 雇用保険料率改正(令和4年2月1日国会提出、現段階では未成立)

1.健康保険法改正

 令和4年1月1日から施行される「全世代対応型の社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律」により、傷病手当金の支給期間及び任意継続被保険者の資格喪失事由の見直しが行われます。また、産科医療補償制度の掛金の引き下げに伴い、出産育児一時金の金額も一部変更となります。

(1)傷病手当金の支給期間通算化

 傷病手当金が支給される期間は、これまで「支給開始日から起算して1年6カ月を超えない期間」とされていたものが、令和4年1月1日より、「支給を開始した日から通算して1年6ヵ月に達する日まで」に変わりました。
 同一のケガや病気に関する傷病手当金ならば、支給期間中に途中で就労するなど傷病手当金が支給されない期間がある場合において、支給開始日から1年6か月を超えても、通算で1年6カ月に達するまで繰り越して支給可能になります
 ただし、支給を開始した日が令和2年7月1日以前の場合には、これまでどおり支給を開始した日から最長1年6ヵ月となります。

(協会けんぽHP「健康保険法等の一部改正に伴う各種制度の見直しについて(傷病手当金、任意継続、出産育児一時金)」)

(2)任意継続の脱退、保険料算定基礎の変更

 任意継続制度は退職後も最大で2年間、在職中に入っていた健康保険に加入できる制度です。

  1. 任意脱退が可能に

     これまでは任意継続被保険者は自由に脱退することができず、資格喪失事由は以下の①~⑤のみでした。今回の改正で⑥の資格喪失事由が追加され、任意継続被保険者でなくなることを希望する旨を加入する保険者に申し出た場合には、その申出が受理された日の属する月の翌月1日にその資格を喪失することになりました。

    1. 就職して健康保険等の被保険者の資格を取得した時
    2. 後期高齢者医療制度の被保険者の資格を取得した時
    3. 任意継続被保険者となった日から起算して2年を経過したとき
    4. 保険料を納付期日までに納付しなかったとき
    5. 死亡した時
    6. 任意継続被保険者で無くなることを希望する旨を申し出たとき
  2. 健康保険組合の保険料算定基礎の変更について

     健康保険組合の任意継続被保険者の算定基礎が変更となりました。
     今までは「①被保険者資格喪失時の標準報酬月額」と「②当該保険者における全被保険者の標準報酬月額の平均した額」のどちらか低い方とされていましたが、健康保険組合の規約で定めた場合は、例えその方が高かったとしても「①被保険者資格喪失時の標準報酬月額」を算定基礎とすることができるようになりました。
     なお、協会けんぽの任意継続被保険者の保険料算定基礎に変更はありません。

(3)出産育児一時金の支給額の内訳変更

 産科医療補償制度に加入されていない医療機関等で出産された場合や妊娠週数22週未満で出産された場合の出産育児一時金は40.8万円に引き上げられました。なお、令和3年12月31日以前の出産の場合はこれまでどおり40.4万円となります。

(協会けんぽHP「健康保険法等の一部改正に伴う各種制度の見直しについて(傷病手当金、任意継続、出産育児一時金)」)

2.社会保険加入時の事業主への年金手帳等の提出不要(令和4年4月1日)

 令和4年4月1日より年金手帳が廃止されることに伴い、社会保険加入時の事業主への年金手帳の提出が不要となります。資格取得手続きの際にマイナンバーを届け出れば、マイナンバーと基礎年金番号が紐付けられているため、被保険者本人の年金手帳や基礎年金番号通知書の確認が不要なためです。
 ただ、これには注意が必要です。企業年金基金に加入されている場合は基礎年金番号で管理がされていますので、今後も年金番号の回収が必要となります。また、企業型DCに加入されている場合や事業主払込のiDeCoに加入している場合等も手続きに基礎年金番号が必要な場合があります。これらの制度に加入されている場合は関係機関にご確認下さい。
 なお、資格取得確認通知書には基礎年金番号が記載されており、現時点では仕様変更予定もないとのことですので、万が一基礎年金番号の確認が必要になった際には、通知書で確認することも可能です。
 その他、年金制度の改正が行われており、それぞれ施行日も異なりますので、関係する改正点については適宜ご確認下さい。

(厚生労働省HP「年金制度改正法(令和2年法律第40号)が成立しました」)

3.「雇用保険マルチジョブホルダー制度」施行(令和4年4月1日)

 「雇用保険マルチジョブホルダー制度」は、複数の事業所で働く労働者が、主たる事業所のみでは週所定労働時間20時間以上を満たさなくても、そのうち2つの事業所での勤務を合計して要件を満たせば雇用保険の被保険者として特例的に認められる制度です。従前、雇用保険は一つの会社でしか加入できませんでしたが、改正後は65歳以上の方を対象として、2つの会社での加入が可能となります。本改正は令和4年4月1日から施行されます。
 雇用保険マルチジョブホルダー制度では、以下の要件を満たす場合、労働者本人が自身の住居所を管轄するハローワークに申し出ることで、申出を行った日から特例的に雇用保険被保険者(マルチ高年齢被保険者)となることができます。なお、本人がハローワークに申出た日から被保険者となるため、遡って被保険者となることはできません。

(厚生労働者HP「事業主向けリーフレット」)

 この制度では、基本的にマルチ高年齢被保険者としての適用を希望する本人が手続きを行う必要があります。(ただし、マルチ高年齢被保険者が死亡した場合の資格喪失手続きは事業主が行います。)
 手続自体は本人が行いますが、事業主は以下の点に留意しておかなければなりません。

  1. 労働者から手続きに必要な証明、必要書類の準備等を求められた場合は、事業主は速やかにその証明、必要書類等の準備を行わなければならない。どうしても事業主が必要な証明等を行わない場合はハローワークから事業主に対して確認を行う。
  2. 雇用保険の成立手続が済んでいない事業所の場合は、別途成立手続きが必要となる。
  3. マルチジョブホルダーが申出を行ったことを理由として、解雇や雇止め、労働条件の不利益変更等、不利益な取り扱いを行ってはいけない。法律上禁じられている。
  4. マルチジョブホルダーがマルチ高年齢被保険者の資格を取得した日から雇用保険料の納付義務が発生する。

 ①の手続きに必要な証明とは、主に「雇用保険マルチジョブホルダー雇入・資格取得届」「雇用保険マルチジョブホルダー喪失・資格喪失届」「雇用保険被保険者離職証明書」への必要情報の記入です。また、必要書類とは、賃金台帳、出勤簿、雇用契約書、退職届等の書類となりますが、添付書類の省略は出来ないため、事業主が準備する必要があります。
 注意が必要となるのは、マルチ高年齢被保険者でなくなった時の証明です。1つの事業所での雇用が継続しており雇用契約に変更がない場合であっても、他の事業所を離職した場合や他の事業所の週所定労働時間が20時間以上となった場合、また他の事業所での雇用契約内容の変更により合算しても週所定労働時間20時間以上を満たさなくなった場合にはマルチ高年齢被保険者ではなくなるため、マルチ喪失届(離職証明書)の提出が必要となります。それぞれのケースによって必要な証明や必要書類が異なります。

(厚生労働者HP「雇用保険マルチジョブホルダー制度の申請パンフレット」)

 マルチ高年齢被保険者が失業した場合には、一定の要件を満たせば高年齢求職者給付金を一時金で受給することができます。給付額は離職日以前の賃金に基づき計算され30日分または50日分が支給されます。
 また、2つの事業所のうち1つの事業所のみを離職した場合でも受給することができます。
 そのほか、育児休業給付・介護休業給付・教育訓練給付等も対象になります。

(厚生労働者HP「雇用保険マルチジョブホルダー制度の申請パンフレット」)

4.雇用保険料率改正(令和4年2月1日国会提出、現段階では未成立)

 雇用保険料率改定案が令和4年2月1日に国会に提出されました。これが国会で成立した場合は、雇用保険料率の引き上げとなります。
労働者負担分については令和4年10月1日からの引き上げ、事業主負担分については、令和4年4月1日からと令和4年10月1日からの2段階での引き上げとなります。

(厚生労働省HP「仮に法律案の内容どおり国会で成立した場合の令和4年度の雇用保険料率」)