①テレワークに関するガイドラインが改正されたそうですが、内容を教えて下さい。
②安全衛生委員会や衛生委員会を、対面ではなくリモート会議で開催することは可能でしょうか。
③産業医の定期巡視をリモートで行うことは可能でしょうか。

①本年3月25日、テレワークガイドラインが改正されました。テレワークを推進するため、労働時間の柔軟な取扱い等が定められています。詳細は解説を確認して下さい。
②一定の要件の下に、リモート会議が可能です。
③産業医の定期巡視は実地が求められ、リモートでは対応できません。

1.テレワークガイドラインの改正

(1)改正の概要

本年3月25日「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」が改正され、「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」に名前も改められました。テレワークの推進を図ることが目的で、概要は右図の通りです。
従前のガイドラインは2018年2月に改正されたものですが、当時は働き方改革の一環として示され、法規制の適用に関する説明が主でした。その後、新型コロナウイルスの感染予防のため急速にテレワークの導入が進む中で、テレワークの問題点が浮き彫りになり、企業規模や業種によって活用度合いや定着にもばらつきがあるといった状況が生まれました。今回の改正は労働時間管理などを柔軟にし、ポストコロナも見据えて、テレワークをより推進していこうという姿勢がうかがえます。もっとも、企業によって業務内容やシステム化の状況は様々であることから、ガイドラインで具体的内容を定めることは限界があります。詳細は各企業で定めることになるため、改正ガイドラインでも「テレワークを円滑に実施するためには、使用者は労使で協議して作成したテレワークのルールを就業規則に定め、労働者に適切に周知することが望ましい」としています。

(2)テレワーク対象者等

本改正では、テレワークの対象業務や対象者等について新たに規定されました。一般にテレワークが難しい業種・職種であっても、業務遂行の方法の見直しを検討することが望ましいとし、オフィスに出勤する労働者のみに業務が偏らないよう、留意することが必要とされました。対象者の選定に当たっては、正規雇用労働者、非正規雇用労働者といった雇用形態の違いのみを理由としてテレワーク対象者から除外することのないよう留意が必要としています。特に新入社員、中途採用、異動直後の社員は、コミュニケーションの円滑化に特段の配慮が望ましいとしています。
人事評価制度については、オフィス勤務の場合の評価方法と区別する際には、誰もがテレワークを行えるように工夫することやオフィスに出勤している労働者を高く評価することがテレワークの妨げになるとしています。

(3)導入に当たっての望ましい取り組み

導入に当たっての望ましい取り組みとして、不必要な押印や署名の廃止、書類のペーパーレス化、決済の電子化等が有効であり、職場内での意識改革をはじめ、業務の進め方の見直しに取り組むことが望ましいとしています。また、適切なコミュニケーションを促進するための取り組みを行うことが望ましいこと、企業のトップや経営層がテレワークの必要性を理解し、方針を示すなど企業全体として取り組む必要があることに触れています。

(4)労働時間の柔軟な取扱い

「労働時間の柔軟な取扱い」については、特に次の点が注目されます。

  • 通常の労働時間制度や変形労働時間制においては、テレワークでオフィスに集まらない労働者については、必ずしも一律の時間に労働する必要がないときには、その日の所定労働時間はそのままとしつつ、始業・終業の時刻について、テレワークを行う労働者ごとに自由度を認めることも考えられる。
  • フレックスタイム制は、労働者が始業及び終業の時刻を決定することができる制度であり、テレワークになじみやすい。
  • 事業場外みなし労働時間制は、労働者が事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定することが困難なときに適用される制度であり、テレワークにおいて一定程度自由な働き方をする労働者にとって、柔軟にテレワークを行うことが可能となる。

 事業場外みなし労働時間制は、適用範囲を限定的に解する傾向にあったのですが、テレワークでは柔軟に使えることを明確にしており意義があります。また、中抜け時間を随時把握するのではなく、例えば1日の終業時に労働者から報告させること、中抜け時間を休憩時間として取り扱い終業時刻を繰り下げることなどの方法をあげています。さらに、労働時間の把握については、パソコンのログなどの客観的な記録のほかに、労働者の自己申告による把握も可能なことを明記しました。
以上、注目されるポイントを見て参りましたが、総じて改正ガイドラインは顕在化した問題点に言及はしていますが、具体的な対応策に触れられていない部分も多く、実務的な対策は、個々の企業で検討していく必要があると言えそうです。

(以上、厚生労働省HP「テレワークガイドラインの改定 主な概要」

2.衛生委員会、安全委員会、安全衛生委員会のリモート会議について

 常時50人以上の労働者を使用する事業場では衛生委員会、一定の業種では安全委員会(両方を設ける必要がある場合は安全衛生委員会でも可)を設け、安全又は衛生に関する重要事項について調査審議させ、事業者に意見を述べさせることとされています。
新型コロナウイルス感染症の流行を契機に、衛生委員会、安全委員会、安全衛生委員会(以下「安全委員会等」という。)をオンラインやシステム等を使って行うリモート会議で開催したいとのニーズが高まりました。厚生労働省はリモート会議での開催を可能としつつ、十分な調査審議が確保されるよう留意点を通達しています(「情報通信機器を用いた労働安全衛生法第17条、第18条及び第19条の規定に基づく安全委員会等の開催について」令2.8.17基発0827第1号)。以下ポイントを確認します。

(1)改正の概要

  1. 安全委員会等を構成する委員(以下「委員」という。)が容易に利用できること
  2. 映像、音声等の送受信が常時安定しており、委員相互の意見交換等を円滑に実施することが可能なものであること
  3. 取り扱う個人情報の外部への情報漏洩の防止や外部からの不正アクセスの防止の措置が講じられていること

(2)改正の概要

  1. リモート会議、音声通信、チャット(即時に行われるもの)
    対面で開催する場合と同様に、委員相互の円滑な意見交換等が即時に行われ、必要な事項についての調査審議が尽くされていること。
    なお、音声通信やチャット機能を用いた開催については、調査審議に必要な資料が確認でき、委員相互の円滑な意見交換等及び必要な事項についての十分な調査審議が可能であること
  2. 電子メール等を活用した即時性のない方法
    アによって開催することを原則としますが、次の1~4に留意の上、あらかじめ安全委員会等で定められている場合は、電子メール等を活用した即時性のない方法の開催も差し支えないとされています。

    1. 資料の送付等から委員が意見を検討するための十分な期間を設けること
    2. 委員からの質問や意見が速やかに他の委員に共有され、委員間で意見の交換等を円滑に行うことができること。その際、十分な調査審議が可能となるよう、委員全員が質問や意見の内容を含む議論の経緯を確認できるようにすること。
    3. 委員からの意見表明等がない場合、当該委員に対し、資料の確認状況及び意見提出の意思を確認すること。
    4. 電子メール等により多数の委員から異なる意見が提出された場合等には委員相互の意見の調整が煩雑となることから、各委員から提出された意見の調整に必要な連絡等を行う担当者をあらかじめ定める等、調査審議に支障を来すことがないようにすること。

(3)改正の概要

 対面の安全委員会等と同様に、リモート会議で開催した場合も、議事で重要なものについては、書面により記録し保存する必要があります。ただし、電磁的記録により作成及び保存することも可能です。その場合は「労働基準局所管法令の規定に基づく書類については、労働基準監督官等の臨検時等、保存文書の閲覧、提出等が必要とされる場合に、直ちに必要事項が明らかにされ、かつ、写しを提出し得るシステムとなっていることが必要」とされています(「厚生労働省の所管する法令の規定に基づく民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する省令について」平17.3.31基発0331014)。

3.産業医の職務の一部リモート化について

常時50人以上の労働者を使用する事業場は、産業医の選任が義務付けられています。近年の急速なデジタル技術の進展にコロナ禍が加わり、この産業医の職務についても一部リモートによる対応が認められています。本年3月31日には「情報通信機器を用いた産業医の職務の一部実施に関する留意事項等について」(基発0331第4号令和3.3.31)が示されていました。
 通達をもとに、産業医の行う職務について情報通信機器を用いることが可能か整理しました。可能な場合についても一定の留意事項がありますので、詳細は通達をご確認下さい。

内容・条文 リモート可OR実地
医師による面接指導(安衛則第14条第1項第2号及び第3号関係) リモート可
ただし、面接指導を実施する医師が必要と認める場合には直接対面により実施すること。
「情報通信機器を用いた労働安全衛生法第66条の8第1項、第66条の8の4第1項及び第66条の10第3項の規程に基づく医師による面接指導の実施について」(基発0915第5号平27.9.15)に基づいて行う。
作業環境の維持管理及び作業の管理(安衛則第 14 条第1項第4号及び第5号関係) 実地
産業医の定期巡視の実施の際は、実地で作業環境や作業内容等を確認する必要があること。
衛生教育(安衛則第 14 条第1項第8号関係) リモート可
「インターネット等を介したeラーニング等により行われる労働安全衛生法に基づく安全衛生教育等の実施について」(令和3年1月 25 日付け基安安発 0125 第2号、基安労発 0125 第1号、基安化発 0125 第1号)に基づいて行う。
労働者の健康障害の原因の調査及び再発防止のための措置(安衛則第 14 条第1項
第9号関係)
実地
ただし、報告書等を確認する等により、産業医が実地の確認が不要であると判断した場合はこの限りでない。

原則として、事業場において産業医が実地で作業環境等を確認すること。ただし、労働者の健康障害の原因の調査及び再発防止のための措置について取りまとめられた報告書等を確認する等により、事業場において産業医が実地での作業環境等の確認は不要であると判断した場合には、この限りではない。

定期巡視(安衛則第 15 条関係) 実地
産業医の定期巡視については、少なくとも毎月1回(安衛則第 15 条で定める条件を満たす場合は少なくとも2月に1回※)、産業医が実地で実施する必要があること。
※2月に1回でよい場合
①衛生管理者が少なくとも毎週1回行う巡視の結果、
②衛生委員会等の調査審議を経て事業者が産業医に提供する情報を受けている場合で事業者の同意を得ているとき
安全衛生委員会等への出席(法第 17 条、第 18 条及び第 19 条関係) リモート可
「情報通信機器を用いた労働安全衛生法第 17 条、第 18 条及び第 19 条の規定に基づく安全委員会等の開催について」(令和2年8月 27 日付け基発 0827 第1号)に基づいて行う。