当社では高年齢者雇用に関して、60歳定年、65歳まで再雇用する制度になっています。このシニア層の活躍推進と、努力義務となった70歳までの高年齢者就業確保措置についてどのような対策が考えられますか?

60~65歳までについては、引き続きシニア層に第一線の仕事をしてもらう「現役続行型」や、高度なスキルや専門性を有する人とそうでない人の役割等に応じて処遇を変える「柔軟複線型」などが考えられます。65~70歳については、再雇用基準を設けたり、短時間勤務の再雇用でワークシェアするといった制度が考えられます。

高年齢の活躍推進 | トラストリンク社会保険労務士事務所

1.高年齢者就業確保措置の内容

 高年齢者雇用安定法は、65歳から70歳までの就業機会を確保するため、以下のいずれかの「高年齢者就業確保措置」を講ずる努力義務を事業主に課しています。本改正は2021年4月に施行されており、措置について検討しておく必要があります。

2.高年齢者関連の企業の制度整備状況

 高年齢者関連の制度の整備状況については、次のような調査結果があります(労務行政研究所「労政時報」2022年7月22日発行第4039号22頁以下)。

【中高年・シニア関連の実施率】

制度 実施率(規模計)
61歳以上の定年制 16.8%
選択定年制 2.4%
定年後の再雇用制度(役員は除く) 90.8%
70歳までの就業機会確保措置 26.4%
早期退職優遇制度 16.4%
ライフプランセミナー 21.2%
アウトプレースメントの利用 2.7%
OB・OG会の設置 29.1%

 「61歳以上の定年制」の実施率はまだそれほど多くはありませんが、右肩上がりで増えており、2013年は7.5%→2022年では16.8%と、約10年で倍以上に増えています。定年年齢は65歳79.2%、62歳12.5%、63歳8.3%となっています。
 「定年後の再雇用制度」の雇用上限年齢は、65歳78.4%、70歳15.7%、71歳以上2.4%と、65歳が大半を占めていますが、70歳とする企業も一定数あります。
 高年齢者関連の制度整備については、上記の法改正への対応、少子高齢化による労働力不足の解消、高年齢者のモチベーション向上と活躍の推進、再雇用制度における同一労働同一賃金の懸念などの観点から、徐々に企業の検討が進んで来ています。以下、検討の進め方について解説いたします。

3.検討の進め方

(1)要員構成の現状把握・将来予測

 高年齢者雇用安定法の改正時に設けた制度が古くなっている場合もありますので、自社の状況に適しているのか検討しておくことは重要です。
企業の創業年数や業種などによって、従業員の年齢分布は異なります。創業年数が短い企業の場合、若年層から中年層が占めているため、10年~数十年後に、一気に主力従業員が定年を迎えるといったことが想定されます。他方、創業年数の長い企業では、30代前半と50代の人数が多く、30代半ばから40代が少ないひょうたん型の要因構成になっていることがあります。そうすると、5~10年後にシニア層が増えるため、この層の仕事や処遇をどうするのか検討する必要があります。
基幹人材や管理職となるべき年齢層で人材が不足するという場合、育成を計画的に進めなければなりません。育成が間に合わないのであれば、引き続きシニア層に第一線の仕事をしてもらう「現役続行型」が適しています。この場合、定年延長や選択定年制が視野に入ってきます。
 一方、シニア層が厚いため、若返りを図る必要があるような企業の場合は、早めに後進の育成に役割変更したり、ポジション交替をしてもらう必要があります。このケースでは、高度なスキルや専門性を有する人とそうでない人の役割や職務に応じて処遇を変える「柔軟複線型」が向いていると言えます。60歳定年→再雇用を原則とし、高度専門職は従前の職務・役割を担ってもらい、処遇もある程度維持するという方法です。
 併せて、企業の将来性も検討する必要があります。その企業の業種、商品やサービスが成長分野又は安定分野(又は縮小)なのか、そして労働集約型産業で人手不足なのか又はAIやRPAの導入により業務量が圧縮されていくのかといった点です。成長分野で人手不足なのであれば、「現役続行型」、安定分野で業務量の圧縮が見込まれる場合は「柔軟複線型」が向いていると言えます。

(2)処遇について

 「現役続行型」では、定年を迎えるまでは同じ賃金制度とすることが適しています。多くの企業が職能資格制度を採用していますが、この制度は一度身につけた能力は下がらないという考え方の下、年功的に賃金が上がっていくのが通常です。この制度のまま定年延長することは企業にとって相当な負担です。定年延長や選択定年制を採用するのであれば、役割給などで、任命されるポストや役割に応じて給与が上下するような制度にしておくことが適切です。現役世代を含め賃金制度の見直しを行うとよいでしょう。

【中高年・シニア関連の実施率】

制度 対象 構造 課題 備考
勤続給 勤続年数 上がる
  • 力量反映せず
  • 貢献度反映せず
  • 長く勤務して欲しい
  • 勤続年数による格差(中途社員の不公平感)
  • 一定年齢でストップ
能力給 実力の向上 上がる
  • 能力の陳腐化
  • 発揮度は考慮しない
  • 能力を身につけるため慣れることが前提
    =年功的になる。
  • 保有能力が対象
  • 卒業方式
実力給
(能力)
実力の向上かつ発揮 上がり
下がり
  • 仕事の与え方
  • 評価が困難
  • 能力を身につけるため慣れることが前提
    =年功的になる。
  • こなした仕事が対象
職務給 仕事の価値 上がり
下がり
  • 価値算定が困難
  • 要員に左右
  • 要員計画
役割給 役割 上がり
下がり
  • 昇格はポストの数に左右される(個人の力量が必ずしも反映されない)
  • 担当する役割によって賃金が決まる
  • シングルレートの場合定期昇給がなくなり、閉塞感が発生。
  • 組織にとって都合よく運用できる(労働と賃金のバランス)
  • 社員は下剋上を強いられる

 次に、「柔軟複線型」は、60歳定年→再雇用を原則とし、高度専門職は従前の職務・役割を担ってもらい、処遇もある程度維持するという方法です。定年後再雇用後の処遇が下がることが多いため、モチベーションが下がるといった声が良く聞かれます。同一労働同一賃金規制に反しないかも検討する必要があります。
定年後再雇用の場合、定年の前後で、①職務の内容(業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度)、②職務の内容及び配置の変更の範囲に違いがあるのか検討が必要です。職務内容や人事異動の有無・範囲等に違いがあれば、それらに応じて説明のつく範囲での労働条件の相違であるのか検討します。
職務内容や人事異動の有無・範囲等に違いがない、違いがあっても微妙なケースでは、再雇用者に対する賃金・手当などの賃金構成の工夫・配慮や労使交渉の結果で、賃金額等を決定していくことが重要になってきます。
なお、長澤運輸事件(最判平30.6.1労判1179-34)では、基本給相当部分は1割前後、賞与を含む賃金全体で2割程度の相違は不合理ではないとされていますが、これは労使交渉を経て、調整給など再雇用者に配慮した点が有利に働いた要因であり、このような事情がなければ厳しい判断になった可能性があります。
例えば、高年齢者について、月給は従前より減額になるとしても、再雇用後の役割(後進の育成等)を明確に伝え、シニア世代に応じた目標設定と評価を行い、賞与で成果が反映されるようにしておくことで、モチベーションの維持を図ることが考えられます。

(3)原資について

 定年延長や定年後再雇用後の処遇改善には、原資の確保が必要になります。企業の負担だけで対応できない場合は、次のような選択肢がありますが、不利益変更を伴うものが殆どのため慎重な対応が必要です。

  • 賃金カーブをなだらかにする
  • 手当の見直し(属人的な手当の廃止など)
  • 賞与の基礎部分の縮小
  • 退職金の見直し
  • ワークシェア(短時間勤務の再雇用制度など)
  • その他(新規採用の縮小、早期退職制度、限定正社員の導入など)

 なお、現役世代の不利益変更を伴う場合は、不満の温床となってしまいます。この課題に対しては、不利益変更を講じた世代から定年延長や再雇用時の処遇改善を行うといったことがあげられます。この場合、定年延長や再雇用時の処遇改善の実施には相当程度の時間がかかることになります。

(4)退職金の給付タイミングの検討

 定年延長の場合、退職金制度との兼ね合いも検討する必要があります。60歳→65歳に定年延長する場合、定年後再雇用ではないため、65歳前に退職金の支給ができません。60歳で退職金を受け取りたい人を想定して、再雇用制度と65歳定年制を選択できるようにする方法があります。また、60~65歳の間を定年扱いとする選択定年制を取り入れてもよいでしょう。
選択定年制の退職金設計では、例えば、60歳で支給額を固定した後、定年延長部分を評価して、選択定年退職時に、60歳時点で支給額が固定された分と、定年延長の加算分を合計した退職金を支給する方法もあります。

(5)65歳~70歳の制度設計

 65歳~70歳までの継続雇用については、原資や仕事の有無の問題があり、全員をこれまでと変わりなく勤務してもらうことは難しい企業が多いのではないかと思います。65歳まで定年延長した企業でも、65~70歳の間については再雇用基準を設け、高度専門職や必要なスキルを持つ者については継続雇用するとしている例が多いと感じます。また、短時間勤務の再雇用でワークシェアする制度であれば、比較的負担は少ないでしょう。この層については柔軟に対応できるようにしておくべきです。
また、中高年層の副業・兼業の推進、会社へのロイヤリティの高さを活かして会社見学のガイドやこれまでの経験・知見を活かした社会貢献事業を自身で立案してもらうなども考えられます。

【事例1】(現役継続型)

  • 65歳までの定年延長と70歳までの再雇用制度を導入
  • 入社から65歳定年までの賃金カーブを設定
  • 再雇用は健康、勤怠、評価等による再雇用基準を設定
  • 65歳以降は担当する業務に応じて給与を設定(現役世代の6割~8割程度のテーブル)。

【事例2】(現役継続型)

  • 65歳まで定年延長
  • 60歳以降も総合職のシニア社員として継続勤務し、同じ賃金・評価制度を適用し、役割に応じた処遇とする。ただし、原則転勤がなくなることや職能資格給部分が減額され7割程度の給与になる。
  • 60歳以降、定年扱退職+再雇用を選択できる。

【事例3】(柔軟複線型)

  • 営業職の再雇用上限を70歳まで延長
  • 60~65歳は原則として希望者全員、高い成果を上げている営業職については65歳以降も再雇用契約を更新する。
  • 勤務形態は①短時間勤務(1日の勤務時間が短い)、②週4日勤務から選択する。
  • 4段階の資格制度を設け、月例給は資格ごとの定額。評価は賞与、昇格・昇給に反映。
  • 60歳以降、会社への顧客紹介の成果報酬型の業務委託契約を締結するコースもある。