①65歳から70歳までの高年齢者就業確保措置が努力義務となりましたが、この改正への企業の対応は進んでいますか? ②当社を定年退職した者を、派遣会社に転籍させ、派遣労働者として当社に受け入れるという制度を考えています。このような制度で高年齢者就業確保措置を講ずるという努力義務を果たしていると言えるでしょうか。

①まだ方針を検討中の企業も一定数あるようです。 ②転籍先で常用型派遣(労働者派遣事業者が常時雇用される労働者の中から労働者派遣を行うこと)のように、雇用が確保されているものは65歳以上の継続雇用制度と認められ、就業確保措置を講じていると言えます。

1.高年齢者就業確保措置の内容

高年齢者雇用安定法は、65歳から70歳までの就業機会を確保するため、以下の①~⑤のいずれかの「高年齢者就業確保措置」を講ずる努力義務を事業主に課しています。

①70歳までの定年引き上げ 継続雇用制度
(雇用による措置)
②定年制の廃止
③70歳までの継続雇用制度
(再雇用制度・勤務延長制度)の導入
(特殊関係事業主に加えて、他の事業主によるものを含む)
④70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入 創業支援等措置
(雇用によらない措置)
⑤70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入
a.事業主が自ら実施する社会貢献事業
b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業

①から③については、65歳までと同様の継続雇用制度となります。ただし、③については、特殊関係事業主以外の「他の事業主」によるものも可能となります。
④と⑤は、新たに導入された雇用によらない措置で、これを「創業支援等措置」といいます。創業支援等措置については、過半数労働組合又は過半数労働組合が無ければ過半数代表者(以下「過半数代表者等」という)の同意を得て導入する必要があります。

2.努力義務の考え方

「高年齢者雇用安定法Q&A(高年齢者就業確保措置関係)」(厚生労働省。以下Q&Aという。)は、上記の努力義務について、次のように述べています。

②改正法は 2021 年4月1日から施行ですが、その時点でいずれかの措置が取られていないと厚生労働大臣による指導の対象となるのでしょうか。あるいは、その時点から検討 を始めれば指導の対象とはならないのでしょうか。


⇒ 高年齢者等職業安定対策基本方針において、厚生労働大臣の指導の考え方として、
⑴まずは、制度の内容を把握していない事業主や 70 歳までの就業機会の確保について検討を開始していない事業主等に対して、制度の趣旨や内容の周知徹底を主眼とする啓発及び指導を行うこと、
⑵企業の労使間で合意され、実施又は計画されている高年齢者就業確保措置に関する好事例その他の情報の収集及びその効果的な提供に努めること、
⑶雇用時における業務と、内容及び働き方が同様の業務を創業支援等措置と称して行わせるなど、2020 改正の趣旨に反する措置を講ずる事業主に対しては、措置の改善等のための指導等を行うこと を記載しており、この考え方に基づいて指導等を行います。
改正法が施行される 2021 年4月1日時点で、70 歳までの就業確保措置が講じられていることが望ましいですが、検討中や労使での協議中、検討開始といった状況も想定されます。労働局では、相談支援等を行っておりますので、ご活用いただきながら、措置の実施に向けた取り組みを進めてください。

③改正法においては、高年齢者就業確保措置は努力義務(「努めなければならない」) とされていますが、事業主が措置を講ずる努力(例えば、創業支援等措置について労使で協議はしているが、同意を得られていない場合)をしていれば、実際に措置を講じることができていなくても努力義務を満たしたこととなるのでしょうか。


⇒改正法では、高年齢者就業確保措置を講ずることによる 70 歳までの就業機会の確保を努力義務としているため、措置を講じていない場合は努力義務を満たしていることにはなりません。また、創業支援等措置に関しては「過半数労働組合等の同意を得た措置を講ずること」を求めているため、過半数労働組合等の同意を得られていない創業支援等措置を講じる場合も、努力義務を満たしていることにはなりませんので、継続的に協議いただく必要があります。

 70歳までの高年齢者就業確保措置が現時点で導入されていない企業は、制度導入に向けて継続的に取り組みを進めていく必要があります。

3.上記法改正への対応状況

企業の対応状況については、施行前の調査になりますが次のような結果が出ています(労務行政研究所「労政時報」第4102号14頁以下)。
65~70歳までの就業機会を確保するための措置の決定方針・決定時期を尋ねたところ、「方針は決定しておらず、義務化されるタイミングで決定する予定」が34.6%で最多です。300人未満の企業では43.8%を占め、企業規模が小さいほど義務化のタイミングまで方針決定を待つとする傾向にあります。また、施行日までに決定する企業は34.1%、施行日以降に決定する企業は17.3%、義務化されるまで又は現時点では決定しない企業が48.5%となっています。半数近くが当面は対応しないと考えているようです。
法施行の時点では方針を決定しない理由は、「あくまで努力義務であり、義務化されていないため」が86.8%で最多です。
 また、今後企業がどの高年齢者就業確保措置を講じようと考えているかについては次の通りです。調査時点で自社に適していると考える高年齢者就業確保措置は、「70歳までの継続雇用制度の導入」が87.0%で最多、次に「高年齢者が希望するときは、70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入」が32.5%で、「70歳までの定年引上げ」を選択した企業はありませんでした。今後、高年齢者就業確保措置への対応は継続雇用制度が主流になっていくと予想されます。

4.「③ 70歳までの継続雇用制度」に派遣も含まれるか

「高年齢者就業確保措置」では、特殊関係事業主や他の事業主に転籍して継続雇用される形態が可能ですが、転籍先が派遣会社で派遣労働者として勤務する継続雇用制度は可能なのでしょうか。 Q&Aは、「65歳以上継続雇用制度による継続雇用先としては、派遣会社であっても認められる場合があります」としています。
具体的には、「改正法の趣旨が『希望する高年齢者が70歳まで働ける環境の整備』であることを踏まえれば、いわゆる常用型派遣(労働者派遣事業者が常時雇用される労働者の中から労働者派遣を行うこと)のように、雇用が確保されているものは65歳以上継続雇用制度認められますが、いわゆる登録型派遣(派遣労働者を希望する者をあらかじめ登録しておき、労働者派遣をするに際し、当該登録されている者と期間の定めのある労働契約を締結し、有期雇用派遣労働者として労働者派遣を行うこと)のように、高年齢者の継続的な雇用機会を確保されていると言えない場合には、65歳以上継続雇用制度としては認められません」としています(Q&A3の⑭)。これによると、派遣は可能であるものの雇用が確保されていることが必要と言えます。

5.当該派遣労働者を定年前の会社に受入が可能か

派遣先は、当該派遣先を離職した者を、離職の日から1年以内に派遣労働者として受け入れてはならないという規制があります(労働者派遣法第 40 条の9第1項)。これは、労働者派遣が常用雇用の代替防止を前提として制度化された趣旨によるものです。しかし、60歳以上の定年退職者は規制対象から除外されています(労働者派遣法施行規則第 33 条の 10 第1項)。従って、A社を定年退職し、B派遣会社に転籍し、A社に派遣するということが許されています。これは、60歳以上で定年退職したことがある者は該当すると解されていますので、定年後継続雇用されていた者が65歳を機に派遣会社に転籍する場合も該当する可能性があります。
また60歳以上は労働者派遣の期間制限もかかりません。高年齢者雇用については派遣法の規制は緩和されており、比較的活用しやすい制度と言えるでしょう。

6.派遣会社が特殊関係事業主ではない「他の事業主」である場合

当該派遣会社が定年前の会社の子法人や親法人等のグループ会社である場合は特殊関係事業主にあたります。一方、このような特殊関係事業主に当たらない場合でも、65歳から70歳までの高年齢者就業確保措置では「他の事業主」における継続雇用制度も認めています。
このような「他の事業主」により継続雇用を行う場合には、元の事業主と他の事業主との間で「65歳以上継続雇用制度の対象となる高年齢者を定年後に他の事業主が引き続いて雇用することを約する契約」を締結することが要件とされており、他の事業主は、この事業主間の契約に基づき、元の事業主の従業員を継続雇用することとなります(Q&A3の⑮)。
事業主間の契約を締結する方式は自由ですが、紛争防止の観点から、書面によるものとすることが望ましいと考えられます。書面による場合、例えば、以下のような契約書が考えられます(Q&A3の⑮)。

(参考)
65 歳以上継続雇用制度による就業確保に関する契約書(例)

○○○○株式会社(以下「甲」という。)、○○○○株式会社(以下「乙」と いう。)は、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(昭和 46 年法律第 68 号。 以下「高年齢者雇用安定法」という。)第 10 条の2第3項に規定する契約とし て、次のとおり締結する(以下「本契約」という。)。

第1条  乙は、甲が高年齢者雇用安定法第 10 条の2第1項第2号に基づきそ の雇用する高年齢者の 70 歳までの就業を確保するための措置として導入す る 65 歳以上継続雇用制度を実施するため、甲の 65 歳以上継続雇用制度の 対象となる労働者であってその定年後等(定年後又は甲の導入する継続雇 用制度の対象となる年齢の上限に達した後をいう)も雇用されることを希 望する者(次条において「継続雇用希望者」という。)を、その定年後等に 乙が引き続いて雇用する制度を導入する。

第2条  乙は、甲が乙に継続雇用させることとした継続雇用希望者に対し、乙 が継続雇用する主体となることが決定した後、当該者の定年後等の雇用に 係る労働契約の申込みを遅滞なく行うこととする。

第3条  第1条の規定に基づき乙が雇用する労働者の労働条件は、乙が就業 規則等により定める労働条件による。

以上、本契約の成立の証として本書2通を作成し、甲、乙各自1通を保有する。

令和 年 月 日

(甲)東京都○○○
 ○○○○株式会社
 代表取締役○○ ○○ 印

(乙)東京都○○○
 ○○○○株式会社
 代表取締役○○ ○○ 印

(高年齢者雇用安定法Q&A(高年齢者就業確保措置関係)」(厚生労働省)別添1)