当社はシステム会社ですが、ある客先から現場に出入りできるのはワクチン接種をした者や定期的にPCR検査を受け陰性確認できた者という基準を設ける可能性があると言われました。これに応じて、当社がワクチン接種やPCR検査の義務付けをし、これを受けない場合は別の業務に配置転換することは可能でしょうか?
また、これまで飲み会の原則禁止などの行動制限に関する社内ルールがあったのですが、今後も続けることは可能でしょうか?

会社がワクチン接種を義務付けることはできませんが、PCR検査については、就業規則の受診義務を根拠に一定の範囲の下、義務とすることは可能と考えます。PCR検査を受けない場合に別の業務への配置転換についても、一定の範囲内であれば可能でしょう。
行動制限については、取引先との会食禁止は業務命令の範囲内であるため可能と考えますが、プライベートの飲み会は禁止できず、自粛要請に留まります。行動制限を緩和する場合でも、厚生労働省が出している感染リスクが高まる「5つの場面」などを参考に会社の指針を示しておくとよいでしょう。

1.ワクチン接種の義務付けについて

予防接種法は、市町村長に対して予防接種の実施義務を定めています(第5条)が、予防接種の対象者の接種は義務付けておらず、あくまで努力義務にとどまります(第9条)。
 厚生労働省も、ワクチン接種は強制ではなく、ワクチン未接種者をそれだけを理由に解雇、雇止めすることや、いじめなどの差別的取扱いをすることは許されないとしています(新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け)(以下「一般Q&A」という)1-問10、新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)(以下「企業Q&A」という)10-問11)。
 会社による労働者に対する接種義務付けは、未接種者に対する差別的取扱いにつながる可能性があること、ワクチン接種による影響が不明であること、接種の判断は憲法13条の自己決定権の範疇とも解される見解があり、難しいものと考えます。

2.ワクチン未接種者の異動

一方で、例えばワクチン未接種者を人と接することの無い業務に配置転換することは、一定の制限の下、可能と考えられています(企業Q&A10-問12)。一定の制限とは、業務上の必要性がない場合や、業務上の必要性があっても不当な動機・目的がある場合、または労働者の不利益性が高い場合は無効となります。客先が感染防止のためにワクチン未接種者を受け入れないため、違う客先や業務に配置転換することは、業務上の必要性があり、不当な動機・目的があるとまで言えないと考えます。不利益性については、労働者の個別事情にもよることになり、例えば、介護を要する家族がいるのに単身赴任を命ぜられるといった場合は問題となり得ます。
 このような配転命令権が無効になるようなケースでなければ、ワクチン未接種者を受け入れない客先以外の客先や業務に異動させることは可能と考えます。一方、このような客先の要請がなく、単にワクチン接種しないことにのみを理由として異動させることは不当な動機・目的と判断されるリスクがあります。

新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け)

1.緊急事態宣言と政府の方針

【問10】新型コロナウイルスワクチン接種が、地域・職域で進んでいます。一方でワクチン接種を受けていない人に対する偏見・差別事例があるとも聞きます。 私たちは、どういった点に注意して行動すべきなのでしょうか?

1.接種を受ける際の同意の必要性と接種の判断に資する正確な情報提供

新型コロナワクチンの接種は、国民の皆さまに受けていただくようお勧めしていますが、接種を受けることは強制ではありません。国民の皆さまが接種を受けるかどうかの冷静な判断を行いうるよう、国として正確な情報提供を行った上で、接種を受ける方の同意がある場合に限り接種が行われます。
 予防接種を受ける方には、予防接種による感染症予防の効果と副反応のリスクの双方について理解した上で、自らの意志で接種を受けていただいています。受ける方の同意なく、接種が行われることはありません。

○今回のワクチン接種の「努力義務」とは何ですか。
https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/0067.html
○新型コロナワクチンの接種を望まない場合、受けなくてもよいですか。
https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/0053.html

上記のとおり、国民の皆さまが自らの意思で接種を受けるかどうかの冷静な判断を行いうるよう、国として正確な情報提供に努めるとともに、誤情報や非科学的な情報に対しても、これらをとりあげて注意喚起を行っています。

○SNSやニュースでコロナワクチンが危険と取り上げられていて不安です。どの情報を信じたらいいのでしょうか。
https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/0075.html

2.ワクチン接種を受けていない人に対する差別的扱いの防止

新型コロナワクチンの接種は強制ではなく、接種を受ける方の同意がある場合に限り接種が行われます。職場や周りの方などに接種を強制したり、接種を受けていないことを理由に、職場において解雇、退職勧奨、いじめなどの差別的な扱いをすることは許されるものではありません。
 特に、事業主・管理者の方におかれては、接種には本人の同意が必要であることや、医学的な事由により接種を受けられない人もいることを念頭に置いて、接種に際し細やかな配慮を行うようお願いいたします。

新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)

10.その他(職場での嫌がらせ、採用内定取消し、解雇・雇止めなど)

【問10】新型コロナウイルスワクチン接種が、地域・職域で進んでいます。一方でワクチン接種を受けていない人に対する偏見・差別事例があるとも聞きます。私たちは、どういった点に注意して行動すべきなのでしょうか。

1.接種を受ける際の同意の必要性と接種の判断に資する正確な情報提供

「新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け)1.緊急事態宣言と政府の方針問12「新型コロナウイルスワクチン接種が、地域・職域で進んでいます。一方でワクチン接種を受けていない人に対する偏見・差別事例があるとも聞きます。私たちは、どういった点に注意して行動すべきなのでしょうか?」をご覧ください。


【問11】新型コロナウイルスワクチンの接種を拒否した労働者を、解雇、雇止めすることはできますか。

新型コロナウイルスワクチンの接種を拒否したことのみを理由として解雇、雇止めを行うことは許されるものではありません。


【問12】新型コロナウイルスワクチンを接種していない労働者を、人と接することのない業務に配置転換することはできますか。

一般に、個別契約または就業規則等において業務上の都合により労働者に転勤や配置転換を命ずることのできる旨の定めがある場合には、企業は労働者の同意なく配置転換を命じることができますが、その場合でも配置転換は無制限に認められるわけではなく、不当な動機・目的がある場合や、配置転換の業務上の必要性とその命令がもたらす労働者の不利益とを比較衡量した結果として、配置転換命令が権利濫用に当たると判断される場合もあります。
 新型コロナウイルスの感染防止のために配置転換を実施するにあたっては、その目的、業務上の必要性、労働者への不利益の程度に加え、配置転換以外の感染防止対策で代替可能か否かについて慎重な検討を行うとともに、配置転換について労働者の理解を深めることに努めてください。
 なお、労働者の勤務地や職種を限定する合意がある場合に、その限定の範囲を超えて配置転換を行うにあたっては、労働者の自由な意思に基づく同意が必要であることにも留意してください。
 また、優越的な関係を背景として配置転換の同意を強要等した場合、職場におけるパワーハラスメントに該当する可能性があります。事業主は、パワーハラスメント防止のための雇用管理上の措置が義務付けられていますので、労働者から配置転換の同意を得る際は、パワーハラスメントが生じないよう留意する必要があります。


【問13】採用時に新型コロナウイルスワクチン接種を条件とすることはできますか。

「新型コロナウイルスワクチンの接種を受けていること」を採用条件とすることそのものを禁じる法令はありませんが、新型コロナウイルスワクチンの接種を採用条件とすることについては、その理由が合理的であるかどうかについて、求人者において十分に判断するとともに、その理由を応募者にあらかじめ示して募集を行うことが望ましいと考えます。

3.PCR検査

次に、会社が定期的にPCR検査を受けさせるケースを検討します。PCR検査は、安衛法上の定期健診とは異なる法定外健診の一種です。判例は、就業規則上受診義務に関する規定がある場合に検診の受診命令の有効性を認め、これを拒否した労働者の戒告処分を有効としています(帯広電報電話局事件・最一小昭61.3.13労判470-6)。従って、まずは自社の就業規則に検診等の受診義務規定があれば、これに沿って受診命令を出すことが可能となります。また、就業規則上受診義務に関する規定がない場合でも、一定の場合に受診義務を認めていますが、(京セラ事件・東京高判昭61.11.13労判487-66、空港グランドサービス・日航事件・東京地判平3.3.22判時1382-29)、規定無く行う場合はトラブルを引き起こす可能性がありますので、従業員に検査の必要性等をよく説明し理解を得るよう努める必要があります。
また、検査を受けるだけであって治療方法の選択(憲法13条の自己決定権)でないこと、感染防止のため感染状況を確認することには一定の合理性があり、健康被害リスクもワクチン接種に比べれば低いと言えます。
以上を踏まえると、PCR検査を行う業務上の必要性が高く、検査能力がある医療機関における検査を担保するなど検査方法の相当性・妥当性があること、検査費用は会社が負担すること、検査結果が陽性や擬陽性となった場合の賃金等の補償措置があること、就業規則等の根拠に基づくこと、全員に実施するか、検査の必要性に応じた合理的な基準に従って制度として画一的に実施される検査であることなどを満たせば、義務付けは可能と解されます。後掲の厚生労働省の企業Q&A10-問9では抗原簡易キットの活用にも言及されており、前述の範囲での検査であれば、同省から指導される可能性は低いでしょう。
検査命令が有効な場合、検査の拒否について注意や懲戒を行うこともあり得ます。もっとも、ご質問のケースで客先にも労働者がいる場合、その労働者にも同様の基準を課しているのかは気になる所です。そうでなければ感染症予防のためではなく、検査の必要性が高いと言えず、検査命令の有効性が問題になる可能性があります。

新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)

10.その他(職場での嫌がらせ、採用内定取消し、解雇・雇止めなど)

<保健所との連携>
【問9】職場で新型コロナウイルス感染症患者が発生した場合の保健所との連携に備え、どのようなことに気をつければよいでしょうか。

新型コロナウイルス感染症患者が発生した事業場において、感染拡大を早期に防止するためには、濃厚接触者等の特定及び濃厚接触者等への幅広い行政検査等を効率的に行う必要があり、そのためには、健康観察アプリや抗原簡易キットの活用(※1)等の取組みに加え、当該事業場の従業員を確実に把握することが重要となります。
 このため、日々雇用の者や外国人労働者を含む全ての従業員について、電話番号等を含めた連絡先を、あらかじめ名簿等の形で把握し、感染症法第15条の規定に基づき保健所から求められた場合には情報提供にご協力をお願いします(※2)。なお、保健所が事業場に名簿の提供を求めること及び事業場がこれに応じ、労働者の同意なく連絡先等の情報を提供することは、個人情報保護法等の観点からも問題はありません。
 また、保健所より検査対象者として受検指示があった場合には検査を受ける必要があることを労働者に周知するとともに、受検に関する勤務時間の調整等必要な配慮をお願いします。

(※1)職場における積極的な検査等の実施手順(第2版) https://www.mhlw.go.jp/content/000798697.pdf

(※2)従業員が派遣労働者の場合は、当該従業員の電話番号等の連絡先については、新型コロナウイルス感染症患者が発生した事業場(派遣先)ではなく、派遣元事業主が把握しているものです。このため、派遣先は、感染症法第15条の規定に基づき保健所から協力を求められた場合には、対象となる派遣労働者に係る派遣元事業主の連絡先の情報提供にご協力をお願いします。

4.行動制限の緩和

緊急事態宣言下では、取引先との会食禁止やプライベートの飲み会等に制限を設けている企業がありました。9月末をもって緊急事態宣言が終了し、各自治体の制限が緩和され、経済再開に向けての動きがある中、今後の行動制限はどのように考えるべきでしょうか。
 そもそも、取引先との会食禁止については、使用者の業務命令権の範囲内と言え、国からも3密の禁止が要請されている状況や安全配慮義務の観点からも、権利濫用とまでは言えないと考えます。一方で、従業員の全く私的な飲み会、旅行等については、基本的にはプライベートの範疇であり、職務遂行とは関係なくなるため労働契約の範囲外となり、原則としてプライベート活動の制限はできないと考えます。ただし、業務命令で禁止するのではなく、任意の自粛要請であれば、プライベートの制限の強制とまではいえないため、認められると考えます。会社は安全配慮義務を負っていることから、その行動が他の従業員に感染拡大を生じさせる可能性があることを説明し、従業員の理解と自粛を促します。
 では、現状の企業の動向はどうでしょうか。パナソニックは、まん延防止等重点措置の全面解除後も、社内社外を問わず飲食を伴う懇親会や歓送迎会を自粛しています。出社や出張の制限は緩める一方、従業員の新型コロナウイルスの感染リスクを抑えるため当面は会食自粛を継続するとしています。サワイグループホールディングスも社内の会食自粛は継続するとのことです(日経新聞2021.10.1)。以上のように、出社制限は緩和する企業もありますが、会食は対応が分かれているようです。また、会食を認める企業も一定の制限(4人以下のマスク会食を解禁など)を設けて感染防止に努めています。
 今後、第6波も懸念されています。取引先との会食やプライベート行動制限の緩和を行う場合は、厚生労働省が出している感染リスクが高まる「5つの場面」を避けて行うことが妥当と考えます。会社は従業員に対し、このような基準をもとに行動指針を示しておくとよいでしょう。