働き方改革法により年次有給休暇を毎年5日取得しなければなりませんが、どのような対策が必要ですか?

年休の5日取得義務化に関して、次のような方法があげられます。会社の状況、メリット・デメリットも踏まえ取得方法を検討し、必要に応じて就業規則の改定や労使協定の整備を行います。

  1. 計画年休
  2. 付与日ないし基準日に全員につき5日分の時季指定を行う方法
  3. 付与日から1年以内の一定時期に不足する従業員を抽出し、不足日数分を時季指定する方法

【1】年次有給休暇の使用者付与方式の導入

従前、日本の年次有給休暇(年休)制度は、労働者が年休を取得する時期を指定して請求することで、取得に至るという流れでした。つまり、取得する時期を労使の協議や使用者の決定にゆだねずに、労働者個人の権限としてきたのです。
 ところが、諸外国の年休制度は異なります。ILOは「年次有給休暇に関する条約」(第123号)にて、休暇日数は6カ月継続勤務の者につき3労働週とすること、3労働週のうち少なくとも2労働週は一括付与すべきとしています。さらに、休暇をとる時期は、労働協約等で定めるほか、使用者と労働者(又はその代表)との協議で定めること等を規定しています。
 実際に、スウェーデンでは4週間の休暇は6月から8月までの間に取得されなければならないとしており、フランスでは少なくとも12就業日は継続しなければならず、休暇期間としては5月から10月までを含む期間について労働協約で定めることになっています。
一方、日本では、1987年の法改正により計画年休制度を導入したものの、年休の取得率は低迷しており、いわゆる正社員の約16%が年休を1日も取得していないという状況があります。このようなことから、年休のうち年5日については、使用者が時季を定めて与えなければならないとの「使用者付与方式」が部分的に導入されることになりました。

【2】年次有給休暇の法改正ポイント(2019年4月施行)

 年休は、雇入れの日から起算して6か月継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者には、年10日の有給休暇が付与されます。勤続年数に応じて、年休の付与日数は増えていき、継続勤務6年6か月で年20日が限度となります。パートタイム労働者など所定労働日数が少ない労働者については、所定労働日数に応じた日数の年休が比例付与されます。
 2019年4月からは、労働基準法が改正され、全ての企業において、年10日以上の年休が付与される労働者に対して、年5日については、使用者が時季を指定して取得させることが義務化されました。

【改正ポイント】
  • 年休を比例付与されるパートタイマーは付与日数が10日未満であれば適用されません。
  • 労働者の時季指定または計画的付与により、年休を与えた場合は、与えた日数分については、使用者が時期を定めることにより与える必要はありません。
  • 使用者は、時季指定に当たっては、労働者の意見を聴取し、その意見を尊重するよう努めなければなりません(意見は聴きますが、その意思に拘束されないとも言えます。)。
  • 使用者は、労働者ごとに年休管理簿を作成し、3年間保存しなければなりません(賃金台帳にて休暇取得日を記載する方法、労務管理システムを用いる方法でも可能)。
  • 違反した場合には、罰則(30万円以下の罰金)の適用があります。

【3】改正に対する実務対応

以下、年休5日取得の方法について、実務的ポイントをご紹介します。

1.計画年休

【メリット】確実に消化され、業務の予定が立てやすい。
【デメリット】労使協定の締結が必要になる(ただし届出不要)。

年休のうち、5日を超える分については、労使協定を結べば、計画的に年休を取得させることができる制度です。年休日数のうち5日は、個人が病気など個人的事由で自由に取得できるように必ず残しておかなければなりません。計画年休で取得した日数分については、使用者が時期を定めることにより取得させる必要はありません。
 しかし、例えば、会社がこれまで定めていた特別休暇である夏季休暇を計画年休に変更することに関しては、法の趣旨から問題になると考えます。ただし、一部には、特別年次有給休暇として、これまでの年休日数に上乗せして付与するのであれば、可能と言われています。この場合、割増賃金の算定の際、上乗せした特別年休の日数は所定労働日数に含めないようにしておけば、時給単価が下がらないため、不利益変更にはならないとする考え方です。もし、このような方法をご検討されたい場合は、慎重に対応する必要がありますので、ご相談下さい。

<計画年休の労使協定に定める事項>

  1. 計画的付与の対象者(あるいは対象から除く者)
  2. 対象となる年休の日数
  3. 計画的付与の具体的な方法
    • 計画年休の方法に応じて、例えば次のように与える時季について定めます。
    • 事業場全体の休業による一斉付与…具体的な年休の付与日
    • 班別の交替制付与…班別の具体的な年休の付与日
    • 年休計画表による個人別付与…計画表を作成する時期、手続等(具体的な年休の付与はその計画表によって定まる。)
  4. 対象となる年休を持たない者の扱い
      入社6カ月未満の者やパートについては、対象除外とする、休暇をプラスする又は班ごとにとる方法などがあります。
  5. 計画的付与日の変更
      あらかじめ計画的付与日を変更することが予想される場合には、労使協定で計画的付与日を変更する場合の手続きについて定めておきます。

2.付与日ないし基準日に全員につき5日分の時季指定を行う方法

【メリット】一斉付与の基準日方式であれば、比較的管理しやすい。
労使協定が不要である。

【デメリット】一斉付与の基準日方式でない場合、個別に時季指定が必要になる。
例えば、次のような就業規則の規定例が考えられます。

第○条 会社は、社員が有する各年度の年次有給休暇のうち5日分について、年休付与日の1カ月前までに上長を経由して各社員の意見を聴取した上で、取得の時期を指定する。ただし、入社から1カ月以内に年休の付与が到来する場合は、付与日までに当該社員の意見を聴取し、取得の時期を指定する。

3.付与日から1年以内の一定時期に不足する従業員を抽出し、不足日数分を時季指定する方法。

【メリット】本人取得分が発生する可能性があるため、指定する日数が最小限で済む。
労使協定が不要である。


【デメリット】日数の抽出、時季指定について、個別管理が煩雑となる。

例えば、次年度の年休付与日の2カ月前に、5日取得していない従業員を抽出し、時季指定をする方法です。抽出する時期は自由に設定できるので、年休の取りやすい時期を踏まえて設定するとよいでしょう。計画年休制度を導入しない企業において、現時点では、検討されるケースが多い方法です。

第○条 年次有給休暇は、初年度分については6ヶ月間、次年度以降分については基準日前1年間の各出勤率が全労働日の8割以上の社員に対し、毎年4月1日に、以下の通りに付与する。
(略)
2.会社は、10月1日の時点(※)において、当該年度の年次有給休暇の取得日数が5日以下の社員について、当該各従業員の意見を聴取した上で5日に満たない日数の年次有給休暇の取得時期を指定するものとする。

※一斉付与の基準日方式でない場合は「次年度の年次有給休暇の付与日の3ヶ月前の時点」などと定めます。

4.育児休業等で年休の年度ギリギリになって復帰した従業員についても、5日を消化しなければならないのか

 年休の年度の残期間に応じて按分する例外が設けられていないため、消化日数が5日に満たない場合は、法違反となります。しかし、例えば年休の年度が残り3日間しか無いのに5日消化することはできません。こういったことから、労基署の監督時には、5日消化できなかった経緯も確認するようです。例えば、何らかの休業制度により休んでいて「有給年度の残り1か月の時点で復帰し、本人の希望も聴取したが折り合わず、どうしても5日消化することができなかった」といった経緯が確認できれば、問題にはしないというのが現時点の厚生労働省の見解のようです。今後、解釈通達等が出されるようですので、情報に注意しておく必要があります。

年次有給休暇の計画的付与に関する協定書

○○株式会社(以下「会社」という。)と従業員代表 ○○○○(以下「従業員代表」という。)は、年次有給休暇の計画的付与に関して次のとおり協定する。

(目的)
第1条
年間総労働時間短縮の一環として、年次有給休暇を計画的に取得することを推進するため、就業規則第○条の定めに従い、各従業員が保有する年次有給休暇のうち、5日以内の日数について計画的に付与する。
(計画付与期間)
第2条
計画年休は、以下の期間、従業員に対し与えるものとする。
   (1)1月に2日
   (2)8月に3日
(計画付与日の決定手順)
第3条
1.会社は、毎年9月中に、翌年の暦による休日を考慮の上、計画付与する休暇日を決定し、従業員に対し通知する。

2.会社および従業員は、計画年休日として確定している場合であっても、やむを得ない事情により休暇の変更を希望するときは、7日前までにこれを申し出ることができる。
会社および従業員はこの場合、業務の正常な運営を妨げまたは従業員の予定を著しく妨げる事由のない限りこの変更の申出に応ずるものとする。

(対象除外)
第4条
1.以下の者については、年次有給休暇の計画付与の対象から除外する。
(1) アルバイト、パート、契約社員、嘱託社員、その他臨時に雇用するもので、シフト等により出勤日を決定する者
(2) 会社が除外を相当と認めた者

2.前項以外の従業員で、休暇取得時点で保有する年次有給休暇日数が5日に満たない者については、不足分の日数を追加して特別付与するものとする。 

(有効期間)
第5条
この協定の有効期間は平成 年 月 日から1年間とする。ただし、期間満了1ヶ月までに、会社、従業員代表により異議の申し出がなかった場合は、同一内容にて、期間を1年間更新するものとし、その後も同様とする。

平成   年  月  日

○○株式会社
代表取締役社長 ○○○○
○○株式会社
従業員代表 ○○○○