当社では60歳以降の再雇用社員がいますが、今後65歳以降も引き続き雇用する者がおり、70歳過ぎまでの役職員が在籍することになります。高齢者雇用に関する社会保険や労働保険について教えて下さい。
また、高齢の被扶養者に関する要件等についても教えて下さい。

60歳以降定年後再雇用され給与が下がった場合は、高年齢者雇用継続給付の支給申請を行い、社会保険料を下げる手続を行います。また、65歳では介護保険料の控除終了、70歳は厚生年金保険の資格喪失、75歳は健康保険の資格喪失となり、各保険料の控除を終了します。
また、従業員が65歳に到達した場合は、第3号被保険者である被扶養配偶者は、第1号被保険者へ切り替える必要があります。例えば夫が従業員、妻が被扶養配偶者である場合、夫の会社での手続きは不要ですが、妻は自ら自治体にて第1号被保険者への切替え手続を行なわなければなりません。
さらに、被扶養配偶者の年齢でみると、被扶養配偶者が60歳以上の場合は国民年金の第3号被保険者にはなれません。被扶養者が70歳以上になった場合は、被扶養者が後期高齢者医療の対象となりますので、健康保険の被扶養者にはなれません。
その他、手続や詳細は解説をご確認下さい。

1.高齢者雇用に関する手続等の概要

 高齢者を雇用する場合、年齢によって特別な手続や対応が必要になるため、年齢ごとの取扱いを抑えておく必要があります。本稿では40歳以降の厚生年金保険・健康保険および雇用保険の手続き等をまとめました。
 なお、社会保険料は当月分を翌月の給与から控除するのが原則であるため、保険料控除開始・終了のタイミングはこの原則に従って説明しています。
 また、ここでいう「年齢に達(到達)した時」とは「誕生日の前日」のことであり、「年齢に達した月」とは「誕生日の前日の属する月」を指します。

【例】満40歳になる人の誕生日が11月1日の場合
          40歳に達した時→10月31日
          40歳に達した月→10月

到達年齢 保険の種類 必要な処理及び手続 届出先
40歳 介護保険 ☆給与からの介護保険料の控除開始
60歳 雇用保険
  • 雇用保険被保険者六十歳到達時等賃金証明書
  • 高年齢雇用継続給付受給資格確認票
  • 高年齢雇用継続給付支給申請書

※60歳以降の賃金が減額となり高年齢雇用継続給付金の支給申請をする手続。

ハローワーク
健康保険
厚生年金保険
(厚生年金基金)
  • 雇用保険被保険者六十歳到達時等賃金証明書

※定年後再雇用等、60歳以上の被保険者が退職し1日も空くことなく同じ会社に再雇用され、標準報酬月額が減額となる場合。

年金事務所
健康保険組合
厚生年金基金
65歳 介護保険 ☆給与からの介護保険料の控除終了
70歳 厚生年金保険
  • 厚生年金保険 被保険者資格喪失届 厚生年金保険 70歳以上被用者該当届

※但し、70歳以降も引き続き同額の標準報酬月額相当額の場合は手続き不要。
☆給与からの厚生年金保険料の控除終了

年金事務所
65歳 健康保険
  • 被保険者資格喪失届

☆給与からの健康保険料の控除終了

年金事務所
健康保険組合

2.手続の詳細

(1)40歳到達時【介護保険】

 40歳から64歳までの医療保険の被保険者は、健康保険料と一緒に介護保険料を納めます。 介護保険料は40歳に達した月から徴収が開始されます。事業主は従業員が40歳に達した月の翌月支給の給与から介護保険料の控除を開始します。

例1)5月2日生まれの方が40歳になる場合
「満40歳に達したとき」は5月1日のため、その日が属する月である5月分から介護保険料が徴収されます。事業所勤務者の介護保険料は6月に支給される給与から控除開始となります。

例2)5月1日生まれの方が40歳になる場合
「満40歳に達したとき」は4月30日のため、その日が属する月である4月分より介護保険料が徴収されます。事業所勤務者の介護保険料は5月に支給される給与から。

(2)60歳到達時【雇用保険】・【健康保険・厚生年金保険(厚生年金基金)】

①雇用保険

◆60歳到達時等賃金登録・高年齢雇用継続給付受給資格確認

 事業主に60歳到達時の賃金登録の義務はありません。しかし、60歳到達後や転職等により高年齢雇用継続給付の支給要件に該当する場合には、60歳到達時点の事業主が60歳時点にさかのぼって賃金登録をすることとなります。このようなことを避けるために、ハローワークでは被保険者が60歳となった時点において、できるかぎり登録手続きするよう勧めています。
  60歳到達時等賃金登録をする際は、「雇用保険被保険者六十歳到達時等賃金証明書」と「高年齢雇用継続給付受給資格確認票」をハローワークに提出し、60歳到達時点の賃金月額登録と高年齢雇用継続基本給付金を受給するための資格確認を同時に行います。また、これらの手続きは、高年齢雇用継続基本給付金の初回申請と同時に行うこともできます。
なお、60歳到達時点で雇用保険の被保険者期間が通算5年に満たない場合は、その後被保険者期間を通算して5年を満たした日を「60歳に達した日」とみなして賃金登録をします。

◆高年齢雇用継続給付支給申請

 以下の要件すべてを満たす場合には給付金の支給対象者となりますので、事業主経由で2か月毎にハローワークに「高年齢雇用継続給付金支給申請書」を提出します。

  1. 60歳以上65歳未満の一般被保険者であること。
  2. 被保険者であった期間が通算5年以上あること。(注)
  3. 原則として60歳時点と比較して60歳以後の賃金(みなし賃金含む)が75%未満となっていること。

(注)「被保険者であった期間」は、離職日の翌日から再就職日の前日までの期間が1年以内であって、この期間に雇用保険(基本手当、再就職手当)の支給を受けていない場合に、前職の期間を通算できます。

②健康保険・厚生年金保険(厚生年金基金)

 60歳以上の健康保険・厚生年金保険(厚生年金基金)の被保険者が退職後、1日も空くことなく当該会社に再雇用され給与が減額になる場合、再雇用された月から再雇用後の給与に応じた標準報酬月額に変更することができます。具体的な手続は、厚生年金保険等の「被保険者資格喪失届」及び「被保険者資格取得届」を同時に年金事務所へ提出します(同日得喪)。その際に添付書類として、「就業規則や退職辞令の写し等の退職したことがわかる書類及び継続して再雇用されたことがわかる雇用契約書」または「事業主の証明」が必要になります。
 なお、再雇用後の給与額が退職前と比べて減額とならない場合には同日得喪手続は不要です。

(3)65歳到達時【介護保険】

 65歳に達すると、手続き不要で自動的に介護保険の第2号被保険者から第1号被保険者となります。介護保険料の徴収も特別徴収(年金からの天引き)または普通徴収(口座振替、納付書払い)に変わります。
 介護保険料は65歳に達した月から事業所経由での徴収がなくなるため、事業主は従業員が65歳に達した月の翌月支給の給与から介護保険料の控除を停止します。

例1)5月2日生まれの方が65歳になる場合
「満65歳に達したとき」は5月1日のため、その日が属する月である5月分から介護保険料の事業所経由の徴収がなくなります。事業所勤務者の介護保険料は6月に支給される給与から控除停止します。

例2)5月1日生まれの方が65歳になる場合
「満65歳に達したとき」は4月30日のため、その日が属する月である4月分より介護保険料の事業所経由の徴収がなくなります。事業所勤務者の介護保険料は5月に支給される給与から控除停止となります。

(4)70歳到達時【厚生年金保険】

 70歳に達すると、健康保険の被保険者資格は継続しますが、厚生年金保険の被保険者資格は喪失します。そのため事業主は、70歳到達日以降も引き続き同一の事業所に使用され、70歳到達日時点の標準報酬月額が70歳到達日の前日の標準報酬月額と異なる人について、「厚生年金保険被保険者資格喪失届 70歳以上被用者該当届」(以下「70歳到達届」)の提出が必要です。
なお、70歳到達前後で標準報酬月額が変わらない人については、70歳到達届を提出する必要はありません。
事業主は、従業員が70歳に達した月の翌月支給の給与から厚生年金保険料の控除を停止します。

(5)75歳到達時【健康保険】

 健康保険の被保険者資格は、75歳に達する日(誕生日の前日)ではなく75歳の誕生日(誕生日の当日)に喪失し、75歳の誕生日からは「後期高齢者医療制度」に加入することになります。事業主は「健康保険被保険者資格喪失届」を年金事務所又は健康保険組合等に届出る必要があります。
 また、75歳の誕生日が属する月の分から健康保険料は発生しないため、事業主は、従業員が75歳の誕生日が属する月の翌月支給の給与から健康保険料の控除を停止する必要があります。

例1)5月2日生まれの方が75歳になる場合
誕生日は5月2日のため、その日が属する月である5月分から健康保険料の事業所経由の徴収がなくなります。事業所勤務者の介護保険料は6月に支給される給与から控除停止します。

例2)5月1日生まれの方が75歳になる場合
誕生日は5月1日のため、その日が属する月である5月分から健康保険料の事業所経由の徴収がなくなります。事業所勤務者の介護保険料は6月に支給される給与から控除停止します。

3.年齢到達により必要となる被扶養者関連の手続き等について

(1)40歳未満の被保険者に40歳以上の被扶養者がいる場合の介護保険料【介護保険】

 協会けんぽの40歳未満の被保険者は、40歳以上の被扶養者がいても介護保険料を納める必要はありませんが、健康保険組合によっては、規約により40歳未満の被保険者に40歳以上の被扶養者の介護保険料の納付を求めている場合があります。詳細はご加入の健康保険組合にご確認ください。

(2)被扶養配偶者の第3号被保険者資格について【国民年金保険】

①配偶者が「20歳以上60歳未満」であること

 第3号被保険者の要件は「20歳以上60歳未満」とされているため、配偶者が20歳未満または60歳以上の場合は第3号被保険者にはなれません。
 なお、第3号被保険者である被扶養配偶者が60歳に達し、第3号被保険者の資格を喪失した際の届出は不要です。

②従業員が65歳に達した場合

 従業員が65歳に到達した場合、第3号被保険者である被扶養配偶者は、第1号被保険者へ切り替える必要があります。
 第2号被保険者の要件は、厚生年金保険又は共済組合に加入している人のうち「65歳未満の人」及び「65歳以上70歳未満で老齢基礎年金の受給資格を満たしていない人」と定められています。そのため第2号被保険者である従業員が65歳に到達し老齢基礎年金の受給資格を満たすときは、被扶養配偶者は第3号被保険者でなくなります。
会社での手続は不要ですが、被扶養配偶者は自ら自治体にて第1号被保険者の切替え手続きを行わなくてはなりません。年金事務所からの通知がないため、第3号被保険者でなくなっていることに気付くことができず、年金定期便等で初めて未納期間が続いていることに気づくといった例も多いようです。従業員が65歳に達した際に会社からの注意喚起があるといいかもしれません。
 同じ理由で、65歳以上70歳未満の老齢基礎年金の受給資格を満たす従業員を新たに雇い入れた場合、配偶者は第3号被保険者にはなれません。
 なお、健康保険については、従業員が65歳を超しても配偶者(またはその他の家族)を被扶養者とすることができます。

(3)被扶養者が75歳に達した時【健康保険】

 被保険者同様、75歳の誕生日から「後期高齢者医療制度」に加入することになりますので、事業主は被扶養者が75歳に達した時は、「被扶養者(異動)届」の届出が必要となります。