最近の法改正や改正の可能性がある労働関連の法律について教えて下さい。
①は施行済、②は6月1日に施行されます。③~⑥は今国会に提出された法案です。
- 雇用保険料率の改定(2025年4月1日より施行済)
- 職場の熱中症対策の義務化(労働安全衛生規則の改正、2025年6月1日より施行決定)
- カスタマーハラスメント対策の義務化(労働施策総合推進法改正案が国会提出)
- 就活生へのセクハラ対策の義務化(男女雇用機会均等法改正案が国会提出)
- 女性活躍の推進(女性活躍推進法改正案が国会提出)
- ストレスチェック制度50人未満の事業場も義務化へ(労働安全衛生法改正案が国会提出)

1.雇用保険料率の改定【2025年4月1日】
本年4月1日の雇用保険料率改定では8年ぶりに料率引き下げとなりました。背景には、コロナ禍の影響で給付金支給等が増えたことで悪化した雇用保険財政が改善されてきたなかで、賃上げや物価高騰等による企業や労働者の負担を少しでも軽減する狙いがあると考えられます。
労働者負担分、事業主負担分ともに0.5/1000の引き下げとなります。詳細は下表でご確認ください。
2025年4月以降の給与計算においては新しい雇用保険料率を適用する必要があります。また、労働保険料の年度更新では、確定保険料算出のための雇用保険料率(変更前のもの)と概算保険料の計算に用いる雇用保険料率(変更後のもの)が異なるため注意が必要です。

(厚生労働省ハローワーク 令和7(2025)年度 雇用保険料率のご案内)
2.職場の熱中症対策の義務化(労働安全衛生規則の改正)【2025年6月1日】
厚生労働省は4月15日に、熱中症対策を事業主の義務とする改正省令を公布しました。業務上の熱中症による死亡災害が2年連続で30人を超え、2024年もそれを上回るベースで発生しています。厚生労働省の死亡事例の分析では、発見の遅れ、異常時の対応の不備が多く問題になっています。そのため現場において、死亡に至らせない(重篤化させない)ための適切な対応が必要とされ、本年6月1日に熱中症対策を事業者の義務とする改正労働安全衛生規則が施行されることになりました。
対象となるのは、「WBGT28度以上又は気温31度以上の環境下で連続1時間以上又は1日4時間以上の実施」が見込まれる作業です。WBGTとは、暑さの指数のことで、暑さ指数計(WBGT測定器)を使用して計測します。
作業強度や着衣の状況等によっては、上記の作業に該当しない場合であっても熱中症のリスクが高まるため、準じた対応を通達で推奨することとされています。また、同一の作業場において、労働者以外の熱中症の恐れのある作業に従事する者についても対応を講じることとされます。
義務付けられるのは以下の事項です。

(厚生労働省「職場における熱中症対策の強化について(その2)」第175回安全衛生分科会資料)
事業者が対策を怠った場合、6月以下の拘禁系または50万円以下の罰金が科される可能性があります。
厚生労働省は、有識者検討会を立ち上げ、職場における熱中症予防策を議論する方針です。対象となる作業が行われている企業は、今後の厚生労働省の情報に注視しておく必要があります。


(厚生労働省「職場における熱中症対策の強化について(その2)」第175回安全衛生分科会資料)/p>
3.カスタマーハラスメント対策の義務化(労働施策総合推進法)【公布日から1年6月以内】
政府は3月11日に、いわゆる「カスタマーハラスメント(カスハラ)」(顧客による著しい迷惑行為)対策を企業に義務付ける労働施策総合推進法などの改正案を閣議決定しました。
セクハラやパワハラはすでに法整備され、企業の対策が義務化されていましたが、カスハラの法規制はなく、カスハラ被害が問題視されていました。そこで、パワハラ防止を定めた労働施策総合推進法を改正し、カスハラ防止対策を事業主の義務とする法律案が国会に提出されました。改正法案は、今国会での成立を目指しており、成立すれば公布後1年半以内に施行されます。
同法案ではカスハラの定義が規定され、事業主に対し、対応方針の明確化や周知、相談窓口の設置、カスハラがあった場合の迅速な対応が求められることになります。
【労働施策総合推進法案】
(職場における顧客等の言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等)
第三十三条 事業主は、職場において行われる顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者(次条第五項において「顧客等」という。)の言動であって、その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
外の人物であるため、企業が直接規制することが難しい面があります。社内で相談体制を整備する際、主管部門は、社内の顧客対応部門や法務部等が適している可能性があり、人事部はカスハラ被害者の異動やメンタル不調の対策といった役割で連携することが考えられます。その前提で相談窓口をどこに置くか検討するとよいでしょう。
4.就活生へのセクハラ対策の義務化(男女雇用機会均等法)【公布日から1年6月以内】
就職活動中の学生に対するセクハラ防止対策を事業主の義務とする男女雇用機会均等法の改正が今国会に提出され、成立すれば公布後1年半以内に施行されます。同法案では、従業員が就活生と接する面談時などのルールを定めておくこと、相談窓口を設置することなどが想定されています。
5.男女間賃金差異及び女性管理職比率の公表対象拡大(女性活躍推進法)
男女間賃金差異及び女性管理職比率の公表は、これまで301人以上の企業で義務となっていましたが、これを101人以上の企業に対象を拡大し、公表を義務付ける改正が今国会に提出されています。成立すれば、2026年4月1日に施行されることになります。

(厚生労働省第217回国会(令和7年常会)提出法律案)/p>
6.ストレスチェック制度50人未満の事業場も義務化へ
現在、労働者数50人未満の事業場については、ストレスチェック制度は努力義務となっていますが、実施を義務付ける法案が国会に提出されました。50人未満の事業場の負担に配慮し、施行までの十分な準備期間を確保するとされており、成立すれば、公布後3年以内に施行されます。