発熱や風邪症状の従業員、または新型コロナウイルス感染者等が出た場合どのように対応すればよいですか

発熱や風邪症状の従業員、または新型コロナウイルス感染者等が出た場合どのように対応すればよいですか

発熱や風邪症状などの体調不良者に対しては、「かかりつけ医・最寄りの医療機関」もしくは「自治体が設置する新型コロナウイルス受診相談窓口等」に相談し、新型コロナウイルスの検査を受けるよう勧め、感染リスクの懸念がなくなってから出社を認めるのがよいでしょう。感染者については解説を確認下さい。

新型コロナウイルスの感染拡大が続き、本年1月7日、政府は2回目となる緊急事態宣言を出しました。対象地域は11都道府県で午後8時以降の不要不急の外出自粛や、飲食店への営業時間短縮要請がなされています。
ここの所、感染者が出た場合のご相談なども寄せられており、病院の検査体制なども変わってきていますので、風邪症状が出た社員、感染者等への対応について再度確認をしておきたいと思います。

1.発熱や風邪症状などの体調不良者への対応

インフルエンザや風邪が流行するこの時期、症状で違いを見分けることはできません。また、ご存知のように新型コロナウイルスでは、症状がほとんどなくても、陽性例が多く出ているという現状があり、風邪症状を呈している従業員をそのまま勤務可能とするには、従業員の安全配慮義務やクラスター防止の観点から望ましくありません。
「職域のための新型コロナウイルス感染症対策ガイド(第4版)」(一般社団法人日本渡航医学会・公益社団法人日本産業衛生学会)。以下「職域コロナガイド」という)では、発熱や風邪症状の体調不良を認める場合は、従業員に対しては「かかりつけ医・最寄りの医療機関」もしくは「自治体が設置する新型コロナウイルス受診相談窓口等」に相談し、新型コロナウイルスの検査を受けること勧めています。最近ではPCR検査や抗原検査を受けられる民間の病院なども増えてきているようですので、まずは本人から医療機関に電話で相談するといでしょう。同ガイドでは、症状出現後に受けた新型コロナウイルス検査が陰性で、かつ他の症状より新型コロナウイルス感染症が強く否定された場合には、発熱や風邪症状の消失から少なくとも72時間が経過している状態を確認して復帰させるとしています。医療機関受診の際、復帰時期の目安についても医師に確認しておくとよいでしょう。
一方、職域コロナガイドでは、発熱や風邪症状が改善したとしても、医療機関を受診しない、受診はしたものの新型コロナウイルスの検査を受検しなかった際には、新型コロナウイルス感染症を完全に否定することはできないため、次の基準に基づいた職場復帰を推奨しています。相当期間出社ができなくなりますので、テレワークや休業が困難な場合は、検査を受けるよう勧めるのがよいでしょう。

【新型コロナウイルスの検査を受けていない者の職場復帰の目安】

次の条件をいずれも満たす状態で職場復帰させる。

  • 発症後に少なくとも 8 日が経過している。
  • 解熱後に少なくとも 72 時間が経過しており(a)、発熱以外の症状(b)が改善傾向である。

    (a)解熱剤を含む症状を緩和させる薬剤を服用していない
    (b)咳・倦怠感・呼吸苦などの症状


上記期間の休業が困難な場合には、できる限り新型コロナウイルスの検査を受けるようにする。
それができない場合には、事業所の責任のもとに、以下の対応を取ることもやむを得ない。

  • 発熱や風邪様症状の消失から少なくとも 72 時間が経過している(a)状態を確認して復帰させる。

– 医療機関等への負担がかかる各種証明書(「陰性証明書や治癒証明書」)の請求はできるだけ控えること。
– 職場復帰後は日常的な健康観察、マスクの着用、他人との距離を適切に保つなどの感染予防対策を従来通り行う。
– 在宅勤務に限ればこの限りではないが、家庭内感染に注意すること。

出所:「職域のための新型コロナウイルス感染症対策ガイド(第4版)」
(一般社団法人日本渡航医学会・公益社団法人日本産業衛生学会)

出社制限の方法としては、在宅勤務をできるようにしておくのがベストです。調査結果でも「在宅勤務を命じる」65.7%、「自宅待機を命じる」50.4%、「年休の取得勧奨」47.5%となっており、症状が重くなければ、在宅勤務に切り替え仕事への影響を最小限に抑えているようです(労政時報第4002号20.10.23「コロナ禍に企業はどう対応したか」65頁。以下調査結果という)。また、「自宅待機を命じる」または「休業させる」とした企業の賃金の取扱いは、賃金を「100%支払う」78%、「一部支払う」は15.5%となっており、感染予防を優先している状況がうかがえます。コロナ感染対策のための時限措置として、感染疑い者、濃厚接触者などへの特別休暇を設けることも一つの方法です。

2.職場から感染者が出た場合

(1)感染者について

従業員から、濃厚接触者となりコロナの症状も出ているので感染の可能性が高いといった連絡がきた場合には、次のような手順で出社制限を行います。

  1. 検査結果が出るまでは、体調や症状を確認し出社、外出を控えてもらう。
  2. 陽性の結果がでたら、医師・保健所の指示に従い、感染リスクがなくなるまで出社制限や休業してもらう。
  3. 体調に無理のない範囲で、発症するまでの行動履歴を確認する。

基本的には医師や保健所から出社制限の指示が出ますので、出社制限されている期間は出社させません。実際には、患者本人から 勤務先に報告される方が時間的には早いので、報告を受けた会社は(保健所からの指示を待たずに)事業所を管轄する保健所に連絡を行い事前に指示を受けておくことが望ましいでしょう(職域コロナガイド)。
 出社制限については、年休の取得勧奨や休業をさせて傷病手当金を受給することなどが考えられます。調査結果でも「年休の取得勧奨」51.3%、「休業させ、傷病手当金の支給要領に従う」35.3%となっています。

(2)濃厚接触者の確認

次に濃厚接触者の特定を行います。濃厚接触者は次のように定義されています。

患者(検査で陽性と診断された者)の感染可能期間に接触した者のうち、

  1. 患者と同居あるいは長時間の接触(社内、航空機内等を含む)があった者
  2. 手で触れることのできる距離(目安として1メートル)で、必要な感染予防策なしで、患者と15分以上の接触があった者

などとされています(国立感染症研究所 感染症疫学センター)。

実務的には、次のような範囲を決めて、特定していくことになります。

  1. 感染者が発症(37.5度以上の発熱など)した日の少なくとも2日前から最終出社日までの行動履歴、場所等を踏まえて、職場で濃厚接触者がいないかヒアリングする。
  2. 感染者と発症日とその前2日間に、次の範囲で接触した者をリストアップする。

-半径2メートル以内で30分以上接触した者
-半径1メートル以内でマスクをせずに15分以上接触した者

感染者が判明すると、保健所が濃厚接触者を特定(積極的疫学調査)し、会社や関係者は保健所の指示に従うというしくみになっています。しかし、東京では、保健所からの濃厚接触者の特定や検査の指示が遅く、12月下旬頃にはより長く待たなければならない状況になっていました。また、東京、千葉、埼玉、神奈川などは、今後、積極的疫学調査を高齢者・学校・医療関係者に絞る方針を示しています。このように感染拡大地域では保健所による濃厚接触者の特定に時間がかかること、また今後は保健所から職場の濃厚接触者の特定が行われない可能性があることを踏まえると、会社が速やかに濃厚接触者の特定を行う必要があります。職場のクラスター防止や他の社員の安全配慮義務の履行のためです。ただし、感染者のプライバシーの保護のため、感染者の情報開示は、感染者の同意を得て、濃厚接触者の特定のため必要な範囲に限定して行うことが重要です。

(3)濃厚接触者への対応

保健所から従業員が濃厚接触者と判断された場合は、PCR検査が行われます。検査結果が陰性の場合でも、感染者の感染可能期間の最終接触日から14日間の健康観察が指示されます。また、会社が独自に指示を行う場合は、上記1を参考に、医療機関に相談するなどして、検査を受けることが望まれます。
 出社制限の方法としては、やはり在宅勤務をできるようにしておくのがベストです。調査結果でも「在宅勤務を命じる」67.5%、「自宅待機を命じる」51.6%としている企業が半数以上となっています。また、「自宅待機を命じる」または「休業させる」とした企業の賃金の取扱いは、賃金を「100%支払う」76.7%、休業時の休業手当は「平均賃金の60%を支払う」59.8%となっています。

(4)消毒

感染者の行動履歴から、消毒すべき場所を特定して消毒をします。職場の消毒等については、保健所等より指示がある場合にはその指示に従い、特段の指示が無い場合には、以下の方法によって実施します。以下「新型コロナウイルス感染症の陽性者等が発生した場合における衛生上の職場の対応ルール(例)」などを参考にまとめたものです。

  1. 消毒を行う箇所

    -最終出社日とその前2日間に、15分以上使用した場所
    -陽性者等の執務室、手がよく触れた場所(パソコン、タブレット、電話、FAX、コピー機などの電子機器、陽性者等の椅子や机、キャビネット、ドアノブ、照明スイッチ、床面や壁など)
    -共用場所(会議室、トイレ、食堂、更衣室等)

  2. 消毒時に使用するもの

    ‐消毒用アルコール、次亜塩素酸ナトリウム、消毒用エタノールなどを使用する。
    ‐清掃、消毒を行う者は、手袋、マスク、ゴーグル等の眼を防護するものなどの保護具を着用する。手袋は頑丈で水を通さない材質のものを用いる。
    ‐清拭には使い捨てのペーパータオルなどを用いる。

(5)公表・情報提供・差別の禁止

コロナ感染を含む「病歴」は「要配慮個人情報」であるため、必要性もなく安易にその情報を開示することは避けます。また、その情報を利用する場合は、原則としてあらかじめ本人の同意を得ます。社内公表の場合、あらためて手洗いなどの感染予防の励行を促すことが目的で、個人名や所属部署の公表は必要ありません。ただし、濃厚接触者を確認する段階では、個人名を開示する必要が出てきますが、利用目的を限定し、必要最小限の人数に留めて情報を共有します。取引先等の社外への公表は、先方の濃厚接触者を特定するためには個人名が必要になりますが、そうでなければ個人名や部署の情報提供は必要ありません。
 また、感染者やその家族に対しての不当な差別や偏見が行われないよう注意する必要があります。例えば、「新型コロナウイルスは誰もがかかる可能性がある感染症で、感染者が悪いのではない。皆で感染防止に努めよう」といったメッセージを発信するのも一つです。

(6)感染者の職場復帰のタイミングについて

職域コロナガイドでは、感染した従業員の職場復帰について、次のように目安を示しています。

【感染した従業員の職場復帰の目安】

次の条件をいずれも満たす状態で職場復帰させる。

  • 発症後(ないし診断確定後)に少なくても 10 日が経過している。
  • 解熱後に少なくとも 72 時間が経過しており(a)、発熱以外の症状が改善傾向である(b)。

    (a)解熱剤を含む症状を緩和させる薬剤を服用していない
    (b)咳・倦怠感・呼吸苦などの症状(ただし味覚・嗅覚障害については遷延することがある)


– 担当医や産業医等から職場復帰に関する助言を受け、無理のない職場復帰を行うこと。
– 医療機関等への負担がかかる各種証明書(「陰性証明書や治癒証明書」)の請求はできるだけ控えること。
– 職場復帰後は日常的な健康観察、マスクの着用、他人との距離を適切に保つなどの感染予防対策を従来通り行う。

出所:「職域のための新型コロナウイルス感染症対策ガイド(第4版)」
一般社団法人日本渡航医学会・公益社団法人日本産業衛生学会)

実際には、退院や宿泊療養が終了した段階で、上記の条件を満たしているようです。しかし、上記条件を満たしている場合でも、対象者の心身の回復具合や職場の受け入れ態勢の状況から、しばらくの間出社を控えてもらい、感染リスクの心配が無くなってから復帰するという流れが現実的です。復帰時期の目安は主治医や産業医に確認しておくとよいでしょう。