最近の法改正について教えて下さい。
- 社会保険のパートの適用拡大が行われます。令和4年10月からは被保険者数が101人以上、令和6年10月からは51人以上の企業に勤務する、週の所定労働時間が20時間以上等の要件に該当するパートタイマーは社会保険の被保険者になります。
- 育児・介護休業法施行規則が改正され、子の看護休暇、介護休暇を時間単位で取得する制度が義務化されます。
- 精神障害の労災認定基準にパワーハラスメントの項目が追加、明記されました。
1.厚生年金保険法、健康保険法等
(施行日 令和4年4月1日、令和6年10月1日)
社会保険(厚生年金、健康保険)は、短時間労働者(以下「パートタイマー」という)については、4分の3基準を満たした者が適用対象となります。4分の3基準とは、「1週間の所定労働時間」および「1ヶ月間の所定労働日数」が、正社員の所定労働時間および所定労働日数の4分の3以上であるパートタイマーについては、社会保険の被保険者になるというものです。 平成28年10月から社会保険のパートタイマーの適用対象が拡大となり、厚生年金保険の被保険者数が常時501人以上の企業では、週20時間以上等の全ての要件を満たすパートタイマーが適用対象となりました(要件は【図表2】左欄)。さらに、平成29年4月からは常時500人以下の企業でも、労使合意に基づき申し出をした場合、同様の要件を満たすパートタイマーが適用対象となりました。 そして、令和2年5月に成立した「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律」により、令和4年10月からは被保険者数が101人以上、令和6年10月からは51人以上の企業に、段階的に適用拡大されることになります。 また、「②雇用期間が1年以上見込まれること」(【図表2】左欄)の要件については、実際に適用除外となるのは、契約期間が1年未満で、書面上更新可能性を示す記載がなく、更新の前例もない場合に限られ、この要件によって適用が左右されるケースは限定的でした。このようなことから、フルタイムと同様の2か月超の要件を適用することになりました(【図表2】右欄②)。 今後、企業規模の引き下げに該当する会社では、社会保険を適用して働きたいのか、それとも適用されない範囲で勤務したいのか等、パートタイマーの意向を確認しつつ対応することが現実的でしょう。
【図表2】
2.子の看護休暇・介護休暇の時間単位取得
(施行日 令和3年1月1日)
(1)概要
これまで、子の看護休暇や介護休暇は、半日単位で取得できる制度でしたが、より柔軟に取得することができるよう、育児・介護休業法施行規則が改正され、時間単位で取得できることになります。
同施行規則では、「1日未満の単位は、半日…であって、始業の時刻から連続し、又は終業時刻まで連続するものとする」とされていましたが、改正により「時間(1日の所定労働時間数に満たないものとする。)であって、始業の時刻から連続し、又は終業の時刻まで連続するものとする。」と変更されましたので、本人から申出があれば時間単位で取得させる必要があります。端的にいえば、義務化されたということになります。
(厚生労働省「子の看護休暇・介護休暇が時間単位で取得できるようになります」)
(2)育児・介護休業規程の変更
パンフレットなどでは、「時間単位で取得できるようになる」といった表現になっていますが、時間単位で取得できるよう、制度を整えなければなりません。自社の育児介護休業規程の変更が必要です。なお、時間単位での取得が可能な労働者については、半日単位での取得を可能とする必要はありません。
【規定例】第○条
- 当該定年の引上げ
- 小学校就学の始期に達するまでの子を養育する従業員(日雇従業員を除く)は、負傷し、又は疾病にかかった当該子の世話をするために、又は当該子に予防接種や健康診断を受けさせるために、就業規則第○条に規定する年次有給休暇とは別に、当該子が1人の場合は1年間につき5日、2人以上の場合は1年間につき10日を限度として、子の看護休暇を取得することができる。この場合の1年間とは、4月1日から翌年3月31日までの期間とする。
- 子の看護休暇は、時間単位で始業時刻から連続又は終業時刻まで連続して取得することができる。
(厚生労働省「子の看護休暇・介護休暇が時間単位で取得できるようになります」)
(3)「時間」とは
「時間」とは1時間の整数倍の時間をいいます。労働者からの申出に応じ、労働者の希望する時間数で取得できるようにする必要があります。例えば、労働者が1時間の看護休暇の申出をし、実際には1時間に満たない時間数を休んだとしても、当該労働者は1時間の子の看護休暇の取得をしたこととして構いません。ただし、休んだ時間分の賃金を控除する場合は、実際に休んだ時間を超えて控除してはなりません。
また、1日の所定労働時間数に1時間に満たない端数がある場合には、端数を時間単位に切り上げる必要があります。
例えば、7時間30分の所定労働時間の場合、次のようになります。
日によって所定労働時間が異なる場合の1日の時間数は、1年間における1日平均所定労働時間数となり、1年間における総所定労働時間数が決まっていない場合には所定労働時間数が決まっている期間における1日平均所定労働時間となります(則第34条第1項)。なお、「1日平均所定労働時間数」は、休暇1日の時間数の計算に用いるものです。時間単位で看護・介護休暇を取得する場合は、休暇を取得した時間数の合計が1日平均所定労働時間数に相当する時間数になるごとに「1日分」の休暇を取得したものと扱います(詳細は「子の看護休暇・介護休暇の時間単位での取得に関するQ&A」問1-4、1-8参照)。看護・介護休暇を取得する日の「1日の所定労働時間数」は看護・介護休暇を取得しようとする日の所定労働時間数をいい、平均所定労働時間数をいうものではありません。
(4)労使協定による除外
看護休暇や介護休暇を時間単位で取得することが困難な業務がある場合は、労使協定を締結することにより、時間単位の休暇制度の対象からその業務に従事する労働者を除外することができます。すなわち「業務の性質又は業務の実施体制に照らして、厚生労働省令で定める1日未満の単位で取得することが困難と認められる業務」は労使協定により除外できます。この業務については、次の例示があげられています。
- 国際路線等に就航する航空機において従事する客室乗務員等の業務等であって、所定労働時間の途中まで又は途中から子の看護休暇又は介護休暇を取得させることが困難な業務
- 長時間の移動を要する遠隔地で行う業務であって、半日単位の子の看護休暇又は介護休暇を取得した後の勤務時間又は取得する前の勤務時間では処理することが困難な業務
- 流れ作業方式や交替制勤務による業務であって、半日単位で子の看護休暇又は介護休暇を取得する者を勤務体制に組み込むことによって業務を遂行することが困難な業務
この業務や例示は、半日単位の時と変わらない表現で、実務上これまでこの業務に当てはめて適用除外にできるケースは殆どありませんでした。もっとも「子の看護休暇・介護休暇の時間単位での取得に関するQ&A」問2-2では、半日単位と時間単位では、困難と認められる業務の範囲が異なる可能性があるため、改めて労使協定を締結する必要があるとしていますので、今一度検討してもよいでしょう。なお、労使協定により時間単位での休暇取得ができないこととなった労働者であっても、引き続き半日単位での休暇取得を認めるよう配慮が求められています。
3.精神障害の労災認定基準の改正
(改正日 令和2年5月29日)
精神障害の労災認定は、「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(平成23.12.26基発1226第1号。以下「認定基準」という)に基づき行われています。令和元年度の精神障害の労災請求件数は、ついに2000件を超え、過去最多を更新しています。こうした中、令和2年6月から改正施行の「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」(以下「労働施策総合推進法という」)にて、パワーハラスメント防止対策が法制化されたことを踏まえ、認定基準の見直しが行われました。
従前の認定基準ではパワーハラスメントの用語は用いておらず、パワーハラスメントに該当する事案については、主に「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」の項目で評価してきました。この度、労働施策総合推進法によりパワーハラスメントの用語の定義が法律上規定されたことを踏まえ、認定基準にもパワーハラスメントの項目を追加、明記することになりました。認定基準では、弱・中・強の三段階ごとに具体例をあげており、実際の出来事がこのどれに当てはまるかで、ストレスの強度を評価します。例えば「上司等による、人格や人間性を否定するような、業務上明らかに必要性がない精神的攻撃が執拗に行われた場合」が「強」の具体例の一つに挙げられています。他方、パワーハラスメントに該当しないものは、従前通り、対人関係の類型の「上司とのトラブルがあった」等の項目で評価されることになります。今回の改正は、労働施策総合推進法の改正と整合を持たせたもので、判断方法などが変わるものではありませんが、パワーハラスメントが明記され、分かりやすくなったことから、今後、請求件数の増加の一因になるかもしれません。
(厚生労働省 令和元年度「精神障害に関する事案の労災補償状況」)