労働社会保険の押印廃止・36協定押印省略、中途採用比率の公表
最近の法改正について教えて下さい。
- 令和2年12月25日より雇用保険、社会保険(厚生年金保険・健康保険)、労働保険の手続きにおいて原則押印が廃止となりました。
また、令和3年4月1日から「36協定届」の様式が変更されます。施行日前であっても、「使用者や労働者の押印又は署名」がなくとも提出することができ、令和3年4月1日までは新旧両様式を使用できます。ただし、「36協定書」自体は労使双方の合意が明らかとなる記名押印・署名等により締結する必要があります。従って、「36協定届」のみ締結する企業は押印の省略はできません。
- 令和3年4月1日から改正労働施策総合推進法が施行され、大企業(常時労働者数301人以上)に対し、正規雇用労働者の採用者数に占める正規雇用労働者の中途採用者数の割合を、定期的に公表することを義務付けられます。
1.労働社会保険の押印廃止・36協定押印省略
昨年11月に河野行政改革担当大臣が記者会見にて「民から官への行政手続きにて、認印はすべて廃止。押印の99%以上廃止を決定。」と発表し話題となったのは記憶に新しいことと思います。
令和2年7月に規制改革実施計画等が閣議決定され、その後厚生労働省の関係省令の改正が行われました。令和2年12月25日より雇用保険、社会保険(厚生年金保険・健康保険)、労働保険の手続きにおいて原則押印廃止となり、36協定届についても新様式での届出が可能となっています。
原則押印廃止とはいえ、まだ押印の必要な様式もありますので、詳細について確認したいと思います。
(1)雇用保険
令和2年12月25日より一部の書類を除き押印は原則廃止となりました。押印欄のある旧様式も押印不要で使用できます。
また、電子申請での育児休業給付、介護休業給付、高年齢雇用継続給付のお手続時に添付する「記載内容に関する確認書・申請等に関する同意書」、についても押印不要となりました。
引き続き押印が必要となる届出については以下の通りです。(※2については事業主から届け出される場合は押印不要となっています。)
引き続き押印が必要となる届出
- 雇用保険適用事業所設置届(裏面)[登録印]
- 雇用保険事業主事業所各種変更届(裏面)[登録印]
- 雇用保険被保険者関係届出事務等代理人選任・解任届[選任代理人が使用する印鑑]
- 各種届出における訂正印
- 各届出時の委任状
- 雇用保険適用事業所情報提供請求書(*1)
- 雇用保険関係各種届出書等再作成・再交付申請書
- 雇用保険被保険者六十歳到達時等賃金証明書(*2)
- 高年齢雇用継続給付受給資格確認票・(初回)高年齢雇用継続給付支給申請書(*2)
- 高年齢雇用継続給付支給申請書(初回分のみ)(*2)
- 育児休業給付金申請にかかる前職からの賃金・勤務状況確認(*3)
- 再就職手当支給申請書[事業主の証明]
- 就業促進定着手当支給申請書[事業主の証明]
- 常用就職支度手当支給申請書[事業主の証明]
- 雇用状況等証明書[事業主の証明]
- 採用証明書
*1 提出者が事業主(当該事業所従業員含む)又は事業主から委任を受けた代理人であることが確認できる場合は押印不要
*2 事業主(被保険者本人以外の当該事業所従業員含む)から届出される場合は押印不要
*3 育児休業給付金受給中の被保険者が離職し、1日の空白もなく他の事業所で資格取得をしたうえで育児休業を継続した場合の、前職(資格喪失事業所)における賃金・勤務状況確認書類への前職事業主証明印は必要となります。
★ ハローワークにて、提出された方の社員証等の確認をさせていただく場合があります。
(2)社会保険(厚生年金保険・健康保険)
令和2年12月25日より一部の書類を除き押印は原則廃止となりました。押印欄のある旧様式も届書提出時の押印不要で使用できます。押印が必要な手続きについては以下の通りです。
引き続き押印が必要な届書
- 国民年金保険料口座振替納付(変更)申出書
- 国民年金保険料口座振替辞退申出書
- 委任状(年金分割の合意書請求用)
- 公的年金等の受給者の扶養親族等申告書
- 健康保険・厚生年金保険 保険料口座振替納付(変更)申出書
- 船員保険・厚生年金保険 保険料口座振替納付(変更)申出書
- 健康保険・船員保険・厚生年金保険 保険料口座振替納付(変更)申出書(ゆうちょ銀行用)
- 健康保険・厚生年金保険 保険料預金口座振替辞退(取消)通知書
- 船員保険・厚生年金保険 保険料預金口座振替辞退(取消)通知書
- 健康保険・船員保険・厚生年金保険 保険料預金口座振替辞退(取消)通知書(ゆうちょ銀行用)
【健康保険組合について】
健康保険組合でも、組合によって押印廃止開始日、押印廃止手続は異なりますが対応を始めています。押印廃止手続きについては健康保険組合によって異なりますので、必ずご加入の健康保険組合にご確認下さい。
多くの健康保険組合で押印不要となっている届書
- 被保険者資格取得届
- 被保険者資格喪失届
- 被保険者報酬月額算定基礎届
- 被保険者報酬月額変更届
- 被保険者賞与支払届
- 被保険者氏名変更届
(3)労災保険
令和2年12月25日より原則押印廃止となり、新ダウンロード様式についても押印欄(本人、事業主、診療所等、社会保険労務士)がなくなっています。労災保険については、個別の案件によりダウンロードできない追加書類が必要な場合がありますが、ダウンロードできない様式については都度ご確認下さい。
また、
(4)労働基準法が規定する手続(36協定届)
36協定届については、「押印・署名の廃止」「協定当事者に関するチェックボックスの新設」の2点において変更があります。
施行日は令和3年4月1日からですが、施行日前であっても、「使用者や労働者の押印又は署名」がなくとも提出することができ、令和3年4月1日までは新旧両様式を使用できます。また施行日以降でも、「チェックボックスの記載の追記」または「チェックボックスの記載を転記した紙の添付」があれば旧様式での届出が可能です。
ただ、省略できるのはあくまでも行政手続の押印ですので下記の点において注意が必要です。
(ア)押印および署名が不要でも記名は必要。
(イ)「36協定届」の署名・押印は不要だが、「36協定書」自体は労使双方の合意が明らかとなる記名押印・署名等により締結する必要がある。
(ウ)「36協定書」と「36協定届」を兼ねる場合は届書に労使双方の合意が明らかとなる記名押印・署名等により締結する必要がある。
「36協定書」と「36協定届」は異なるものです。「36協定書」は労使の話し合いにより締結された時間外・休日労働に関する協定を意味し、この「36協定書」を労働基準監督署に届け出るものが「36協定届」になります。この「36協定届」に労働者代表の押印等を加えることにより「36協定書」とすることは差し支えないとした行政通達(昭53.11.20基発642、最終改正平11.3.31基発168)があり、多くの企業では「36協定届」だけを締結しているのが現状です。従って、「36協定届」だけを締結している企業は、押印・署名の省略はできません。
(5)押印廃止における注意点
傷病手当金請求書、出産手当金請求書、各種労災申請書等、「医師の証明」や「事業主の証明」等の証明欄のあるものについては、押印が不要となっても「証明」自体が不要となったわけではないことに注意が必要です。これまで通り証明欄に証明をもらってください。
同様に、令和2年8月28日より各種健康診断やストレスチェックを実施した際に労働基準監督署に提出する報告書について、産業医等の押印、署名および電子署名が不要となっていますが、あくまでも報告書への署名および電子署名が不要となっただけですので、産業医等の判定、診断、意見聴取等はこれまで通り実施してください。
2.電子申請での36協定の本社一括届出について
複数の事業場を有する場合、これまではすべての事業場が「1つの過半数労働組合」と36協定を締結している場合のみ本社一括届出が可能でしたが、令和3年3月末からは事業場ごとに労働者代表が異なる場合であっても電子申請に限り36協定届の本社一括届出が可能となります。紙での届出の場合はこれまで通り事業場ごとの届出が必要です。
3.中途採用比率の公表
中途採用に関する情報の公表を求めることにより、企業が長期的な安定雇用の機会を中途採用者にも提供している状況を明らかにし、中途採用を希望する労働者と企業のマッチングを促進してくことを目的として、労働施策総合推進法が改正され、令和3年4月1日から施行されます。
これは、大企業(常時労働者数301人以上)に対し、正規雇用労働者の採用者数に占める正規雇用労働者の中途採用者数の割合を、定期的に公表することを義務付けるというものです。経年的に企業における中途採用実績の変化を把握するため、直近3事業年度の割合を公表することになります。中小企業は、中途採用が既に活発に行われていること、中小企業の事務的負担を考慮して、公表義務化は見送られました。
公表は、おおむね1年に1回以上、公表した日を明らかにして、直近の3事業年度について、企業のホームページやその他の方法により、求職者が容易に閲覧できる方法で行います。
従って、3月決算の会社が令和3年4月1日以降に公表する場合、次の事業年度の分を公表することになります。
- 平成30年4月1日~平成31年3月31日
- 平成31年4月1日~令和 2年3月31日
- 令和 2年4月1日~令和 3年3月31日
公表するのは中途採用比率です。すなわちそれぞれの年度の次の割合の公表を行います。
正社員の中途採用者数÷正社員の採用者数
※正社員には短時間正社員(期間の定めのない労働契約を締結している労働者であって、1週間の所定労働時間が同一の事業主に雇用される通常の労働者の1週間の所定労働時間に比し短く、かつ、通常の労働者と同等の待遇を受けるものをいう)も含めます。
※中途採用者とは新規学卒等採用者以外の雇い入れをいいます。
※採用後すぐに退職した従業員もカウントに入れます。
※パート採用しかしておらず、正社員転換制度で正社員に転換している場合
例)2019年にパートで中途採用した人が、2020年に正社員へ転換した(1名)
→2020年の「正社員の中途採用者数」(分子)と「正社員の採用者数」(分母)の両方に1名をカウントするため、100%ということになります。
(2021年3月31日東京労働局職業安定課に確認)