育児・介護休業法が改正され、男性が育児休業を取得しやすい制度になると聞きましたが、どのような改正でしょうか。また、男性の育児休業取得促進事例を教えて下さい。

主に男性が取得できる出生時育児休業制度が創設され、従来の育児休業も2回まで分割取得できるようになりました。雇用保険の改正では出生時育児休業給付金が追加されます。男性の育児休業取得を促進するには、まずは自社内で促進する理由や目的を整理した上で、制度を検討し社内に周知していくことが重要です。事例は解説をご覧ください。

1.育児介護休業法の改正の背景

 昨今、男性が育児休業を取得する場合に給付金や保険料免除はどうなるのか、男性の育児休業を促進するにはどうしたらいいかといったご相談が増えてきました。
 一方、少子高齢化に伴う人口減少下では、出産・育児による離職を防ぎ、男女ともに希望に応じて仕事と育児を両立できる社会にすることが重要と言われていますが、実際の育児休業取得率は、男女で大きな差が存在します。男性の育児休業取得率は、令和元年度で7.48%と、近年上昇しているものの未だ低い水準にとどまります。
 また、約5割の女性が第一子出産後に退職しているのが現状ですが、男性の育児休業取得により、男女問わずワーク・ライフ・バランスのとれた働き方ができる職場環境になれば、女性の雇用継続にもつながると考えられます。
 さらに、夫の家事・育児時間が長いほど妻の継続就業割合や第二子以降の出生割合が高くなるという調査結果もあります。男性が子の出生直後に休業を取得して主体的に育児・家事に関わり、その後の育児・家事分担につなげることは、女性の雇用継続や夫婦が希望する数の子を持つことに資すると考えられています。
 以上のような背景から、男性の育児休業取得促進策が盛り込まれた育児介護休業法の改正が成立しました。なお、施行日の「公布後1年6カ月以内の政令で定める日」は、令和4年10月1日で案が出されており、本稿では現時点の施行日案で記載させていただきます。

2.男性の育児休業取得促進等

 男性が育児休業を取得しない理由に、業務の都合や職場の雰囲気といったものがあげられていることから、次のような取組が検討されました。

①業務ともある程度調整しやすい柔軟で利用しやすい制度
②育児休業を申出しやすい職場環境等の整備

 また、実際に育児休業を取得した男性の多くは子の出生直後の時期に取得しており、出産後の妻が心身の回復が必要な時期に側にいたい、育児に最初から関わりたいといったことからこの時期の取得ニーズが高いと考えられます。そこで、子の出生直後の時期の休業の取得について、現行の育児休業よりも柔軟で取得しやすい枠組みを設けるよう検討がなされました。

(厚生労働省「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律および雇用保険法の一部を改正する法律の概要」)

(1)「出生時育児休業」の概要(施行日(案):令和4年10月1日)

 現行の育児休業よりも柔軟で取得しやすい休業として、出生直後の時期に取得できる「出生時育児休業」が新たに設けられました。
 出生時育児休業は、女性の産後休業期間に相当する、子の出生後8週間以内に最長4週間まで利用できる制度です。柔軟に利用できるよう、休業の申出は原則2週間前までとし、2回まで分割取得が可能です。

(2)職場環境整備及び個別周知(施行日:令和4年4月1日)

 本人又は配偶者の妊娠・出産の申出をした労働者に対し、個別に育児休業制度等について周知し、取得の働きかけをすることを事業主に義務付けることになりました。個別周知の方法については、面談での制度説明、書面等による制度の情報提供等の複数の選択肢からいずれかを選択できるようにします。

(3)育児休業の分割取得(施行日(案):令和4年10月1日)

 従来の育児休業は原則分割することができませんでしたが、2回まで分割取得ができるようになりました。
 出生時育児休業を取得後に従来の育児休業を取得することもできますので、ニーズに応じて短期間の育児休業をくり返し利用しやすくなります。出生時育児休業も通常の育児休業もそれぞれ2回まで分割取得できますので、子が1歳に達する日までの間に最大4回に分けて取得することが可能になります。

(厚生労働省「育児・介護休業法 改正ポイントのご案内」)

(4)育児休業取得状況の公表(施行日:令和5年4月1日)

 常用雇用労働者数が1,000人を超える事業主は、厚生労働省令の定めるところにより、毎年少なくとも1回、育児休業の取得の状況として厚生労働省令で定めるものを公表しなければならないこととされます。公表内容は、「男性の育児休業等取得率」又は「育児休業等及び育児目的休暇の取得率」とされる予定です。
 なお、くるみん認定基準の見直しもなされますが、「育児休業等取得率」または「育児休業等および育児目的休暇の取得率」を公表していることをくるみんの認定基準とすることが、「男性の育児休業取得促進策等について(建議)」(労働政策審議会令和3年1月18日労政審発1251号))にて提言されています。

(5)有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和(施行日:令和4年4月1日)

 有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件のうち「事業主に引き続き雇用された期間が1年以上である者」という要件が廃止されます。ただし、労使協定を締結すれば、事業主に引続き雇用された期間が1年未満である労働者を対象から除外できます。
 これを機に、自社の労使協定を確認しておきましょう。

3.雇用保険法の改正

(1)「出生時育児休業給付金」(施行日(案):令和4年10月1日)

 出生時育児休業を対象とする新たな給付金制度として「出生時育児休業給付金」が創設されます。給付率やその他の制度設計は、現行の育児休業給付金と同様です。また、67%の給付率となる6カ月間(180日)については、出生時育児休業や育児休業など、いずれの期間も通算されます。また、出生時育児休業期間中の就労は、最大10日間(10日を超える場合は80時間)までであれば従来通り就労も認めます。併せて、賃金と給付の合計額が休業前賃金の80%を超える場合は、超える部分について給付を減額するなど、現行のしくみが適用されます。

(2)育児休業給付金のみなし被保険者期間の計算方法の見直し(施行日:公布日から3カ月以内の政令で定める日)

 出産日のタイミングによって受給要件を満たさなくなるケースを解消するため、特例が設けられます。すなわち、原則のみなし被保険者期間が12カ月に満たない場合は、労働基準法の規定による産前休業を開始した日(厚生労働省令に定める理由により当該日によることが適当でないと認められる場合においては、当該理由に応じて厚生労働省令で定める日)から起算して計算します。

4.健康保険法の改正

 育児休業者の健康保険・厚生年金保険の保険料免除期間は基本的に「育児休業等開始月から終了予定日の翌日の月の前月(育児休業終了日が月の末日の場合は育児休業終了月)まで」です。
 月の末日に育休を取得するか、月をまたがないと社会保険料免除となりませんので、月の半ばに数日間の育児休業を取得する場合は免除の対象外でした。
 この点、育児休業中の社会保険料免除要件の見直しが行われ、①に加えて、②の月をまたがないケースが追加され、免除要件が緩和されることになりました。

 ①その月の末日が育児休業期間中である場合
 ②その月中に2週間以上育休を取得した場合

 なお、賞与については、これまでは賞与月の月末時点で育休を取得していると免除されていましたが、改正後は1ヶ月超の育児休業取得者に限り、賞与保険料の免除対象となります。賞与の免除については、これまでより厳しい要件となります。

5.男性の育児休業取得促進に取り組む企業

 男性の育児休業取得を促進するには「促進する理由が自社にとって何か」をよく検討し、目的を明確にすることが重要です。その目的が制度設計に関わり、社内に周知することで従業員に浸透が図られます。
 以下、労政時報を参考に、男性の育児休業取得に積極的な企業の取り組みをご紹介します。(第4016号21.6.25「男性の育児休業取得促進」16頁)。積水ハウスでは「職場内で何かが起こったときにどう対応するか、職場レベルで柔軟に対応していく方法の確認や体制の構築を行っています。これは来る”大介護時代“に備え、その訓練をしているようなものと考えています」として、サポートを誰がどのように行うかといったコミュニケーションを各職場で検討してもらうことや、三菱UFJ銀行のようにチームで一緒に進めるといったコミュニケーションを大切にしている点も注目されます。

会社名 積水ハウス
目的・趣旨
  • 会社のビジョン実現のためにまず社員に幸せになってほしい。
  • 男性育児休業取得は、働き方改革や業務の棚卸し、属人的な仕事のやり方からの脱却、自分の持っている仕事を部下にやらせて部下の成長につながること、男性の育児参画により女性活躍につながっていくことを含め、経営戦略として行う。
  • トップがメッセージを発信
制度
  • 3歳未満の子供を持つすべての男性を対象。1ヶ月以上の有給の育児休業完全取得を促す「イクメン休業制度。
  • 休業が昇給・昇格、賞与、退職金等の算定には影響しない。
効果
  • 自分が育児や家事をすることで、お客様への提案が変わる、共感が得られるようになるなど業務面でも効果。
  • 職場でのコミュニケーションがとりやすくなった。
  • 配偶者の負担を理解できるようになった。
  • これまでの仕事のやり方を見直した。
会社名 丸井グループ
目的・趣旨
  • 男女構成比率は女性が44%であったのに、管理職以上に占める女性の割合は7%に過ぎなかった。
  • 店舗顧客の9割が女性であるにもかかわらず、意思決定層に女性が少ないことを課題と位置づけ多様な視点や価値観を組織全体や意思決定の場に活かし、新しい価値やイノベーションにつなげる。
制度
  • 男女問わず、通常、子供が1歳(保育所に入所できない等の場合最長3歳)までの育児休業。
  • 子供が1歳2カ月に達するまでに育児休業を取得し復職する場合、育児休業期間中の連続7日間は有給とする。
  • 評価は休業前のものを引き継ぎ、昇進昇格に影響を及ぼさない設計。
効果
  • 男性の育児休業取得率100%
  • 女性活躍浸透度
     37%→99%
  • 女性の上位志向
     41%→70%
  • 女性管理職比率
     7%→14%
会社名 三菱UFJ銀行
目的・趣旨
  • 人事担当役員からの「家族にも尊敬される会社にしたい」という声を受けて立ち上げ。
  • アンケートで「育児参画も大事だが、家計への影響は避けたい」という配偶者の声もあり。
  • 後任の配置をせず、家計へのインパクトを最小限にするために、年次有給休暇も活用し、現場が業務継続を遂行できる「1カ月」を期間として設定することが効果的と判断。
制度
  • 10営業日の短期育児休業と10営業日の計画的年休の組合せによる約1ヶ月の育児目的の有給休暇取得を促進する「Ten Plus Ten」を運用。
  • 短期育児休業10営業日は有給とし、給与、賞与、退職金ポイント付与への影響はない。
効果
  • 日常の育児・家事で何が大変なのか分かった。
  • ともに働く行内のワーキングマザーが抱えているもの、つらさや孤独、なぜ育児・家事を配偶者と一緒にしなければならないのか肌身で感じた。
  • 育児休業取得者の業務を引き受けることで、自分自身も成長する良い機会になった(後輩行員)。
  • 「Ten Plus Ten」で休む1カ月間だけではなく、普段からチームの仕事を自分の仕事だと捉え、メンバーが一つになることが大切であり、チームで一緒に進めるという指針をこれからも掲げていきたい(拠点長)。

(労政時報(第4016号21.6.25「男性の育児休業取得促進」16頁以降を参考にまとめたもの)