Ⅰ 2025年4月1日から「育児時短就業給付金」が創設されます
育児時短就業給付金とはどのようなものでしょうか。
育児時短就業給付金は、仕事と育児の両立支援の観点から、育児中の柔軟な働き方として時短勤務制度を選択しやすくすることを目的として創設されました。2歳未満の子を養育するために所定労働時間を短縮して就業した場合に、賃金が低下するなど一定の要件を満たすと支給を受けることができます。

1.育児時短就業給付金とは
2025年4月1日より、雇用保険の被保険者が、2歳未満の子を養育するために所定労働時間を短縮して就業した場合に、賃金が低下するなど一定の要件を満たすと「育児時短就業給付金」の支給を受けることができます。具体的には、育児時短就業中の各月に支払われた賃金額 × 10%の額が支給されます。ただし、支給額と各月に支払われた賃金額の合計が、育児時短就業開始時の賃金額を超えないように、支給率の調整がされます。
2.支給を受けることができる方(受給資格・支給要件)
(1)受給資格
雇用保険の被保険者が、次の①および②の要件を両方満たした場合に支給されます。
- 2歳未満の子を養育するために、育児時短就業する雇用保険の被保険者であること
- 育児休業給付の対象となる育児休業から引き続いて(※1)育児時短就業を開始したこと、または、育児時短就業開始日前2年間に被保険者期間が12か月あること
- 1の「引き続いて」という条件については、育児時短就業に係る子について育児休業給付の支給を受けていた場合であって、当該育児休業給付に係る育児休業期間の末日の翌日(復職日)から起算して、育児時短就業を開始した日の前日までの期間が14日以内のときをいいます。

(厚生労働省リーフレット「育児時短就業給付の内容と支給申請手続」)
(2)支給要件
上記の受給資格に加えて、次の③~⑥の要件をすべて満たす月について支給します。
- 初日から末日まで続けて、雇用保険の被保険者である月
- 1週間あたりの所定労働時間を短縮して就業した期間がある月
- 初日から末日まで続けて、育児休業給付又は介護休業給付を受給していない月
- 高年齢雇用継続給付の受給対象となっていない月
3.対象となる時短勤務について
育児時短就業給付金の支給対象となる時短就業とは、2歳に満たない子を養育するために、被保険者からの申出に基づき、事業主が講じた1週間当たりの所定労働時間を短縮する措置をいいます。短縮後の1週間当たりの所定労働時間に上限・下限はありません。
以下の場合も対象になります。
- 1週間当たりの所定労働日数を変更した結果、1週間当たりの所定労働時間が短縮される場合
- 育児・介護休業法に基づく所定労働時間の短縮措置(1日の所定労働時間を原則として6時間とする措置を含むもの)に限らず、2歳に満たない子を養育するために1週間当たりの所定労働時間を短縮した場合
- 被保険者が子を養育するために短時間正社員、パートタイム労働者等に転換、転職したことに伴い、1週間当たりの所定労働時間が短縮されている場合
- フレックスタイム制で清算期間における総労働時間を短縮して就業する場合。清算期間における総労働時間は変更せず、フレキシブルタイムの一部又は全部の勤務を行わないことで、清算期間毎に欠勤控除を受ける場合は不可。
- その他特別な労働時間制(変形労働時間制など)が適用されている被保険者の場合の時短勤務の取り扱いについては別途ご相談ください。
また、育児時短就業給付金の対象とならないケースは以下となります。
- 月の途中で離職し、被保険者資格を喪失した場合
- 週所定労働時間20時間未満の労働条件で転職した場合
(子が小学校就学の始期に達するまでに1週間の所定労働時間が20時間以上となる労働条件に復帰することが前提であることが就業規則等の書面により確認できる場合を除く)
4.支給対象期間
次の①~④の日の属する月までが支給対象月となります。
- 育児時短就業に係る子が2歳に達する日の前日
※「子が2歳に達する日」とは、2歳の誕生日の前日 - 産前産後休業、育児休業または介護休業を開始した日の前日
- 育児時短就業に係る子とは別の子を養育するために育児時短就業を開始した日前月末日
- 子の死亡その他の事由により、子を養育しないこととなった日
5.支給額
支給額は以下の式より計算された額となります。
支給額=育児時短就業中の各月に支払われた賃金額× 10%
ただし、育児時短就業開始時の賃金水準を超えないように調整されます。また、各月に支払われた賃金額と支給額の合計が支給限度額を超える場合は、超えた部分が減額されます。
具体的な計算方法及び例は、以下の表をご確認ください。

(厚生労働省リーフレット「育児時短就業給付の内容と支給申請手続」)

(厚生労働省リーフレット「育児時短就業給付の内容と支給申請手続」)
賃金額が90%超~100%未満の場合((2)の計算)については、次の支給率早見表で概算することができます。

(厚生労働省リーフレット「育児時短就業給付の内容と支給申請手続」)
なお、次の①~③の場合、給付金は支給されません。
- 支給対象月に支払われた賃金額が育児時短就業前の賃金水準と比べて低下していないとき
- 支給対象月に支払われた賃金額が支給限度額以上であるとき
- 支給額が最低限度額以下であるとき
6.支給申請手続き
育児時短就業給付金の支給を受けるためには、育児時短就業開始時賃金の届出、受給資格確認及び支給申請を行う必要があります。初回の支給申請と同時も可能です。
なお、育児休業給付の対象となる育児休業から引き続き、同一の子について育児時短就業を開始した場合は、育児時短就業開始時賃金の届出は不要です。
支給申請は、原則として2つの支給対象月について2か月ごとに行います。期限は最初の支給対象月の初日から起算して4か月以内です。(例:4・5月分については、7月31日まで)
申請に際し、以下の書類をご用意いただく必要があります。
- 育児時短就業を開始した日、賃金の額と支払状況、週所定労働時間を確認できる書類
(賃金台帳、出勤簿、タイムカード、労働条件通知書、育児短時間勤務申出書、育児短時間勤務取扱通知書、就業規則など) - 育児の事実、出産予定日及び出生日を確認できる書類
(母子健康手帳(出生届出済証明のページと分娩予定日が記載されたページ)、住民票、医師の診断書(分娩(出産)予定日証明書)など)
※育児休業給付の対象となる育児休業から引き続き、同一の子について育児時短就業を開始した場合は、②の提出は不要です。
また、初回支給申請も同時に行う場合以下の書類も必要です。
- 支給対象月における賃金の額及び賃金の支払状況を確認できる書類(賃金台帳など)
- 支給対象月における短縮後の週所定労働時間を確認できる書類(出勤簿・タイムカードなど)
- 時短勤務における労働時間の確認書類のご用意が難しい場合、「育児時短就業期間等に係る証明書」の添付が可能です。詳しくはお問い合わせください。
※その他上記に記載のないケース等については、ハローワーク又は厚生労働省のリーフレット等でご確認ください。
2回目以降支給申請については、支給対象月における賃金の額及び賃金の支払状況を確認できる書類(賃金台帳、出勤簿、タイムカードなど)の添付が必要となります。前回の支給から所定労働時間の変更がある場合はそれがわかるもの(労働条件通知書、育児短時間勤務申出書、育児短時間勤務取扱通知書など)も必要です。
7.実務ポイント
育休復帰にかかわる手続きとして、今までは育児休業終了届、育休月変届、養育期間特例の届出などがありましたが、新たに育児時短就業給付金の給付の支給申請が加わります。 申請者の状況により届出内容、必要書類にかなり違いがあります。具体例をあげておきますので、書類の準備、収集の参考にしてください。 なお、初回支給申請もあわせて行う際は下記表に加え、①、②のいずれの場合も、支給申請期間の賃金台帳・出勤簿は必須です。
【具体例】
対象者 | 必要書類 |
---|---|
①育休から引き続いて時短勤務する方 | 育児短時間勤務申出書、就業規則(本来の所定労働時間が記載されているページ) |
②育休取得せず時短勤務を開始する方 | 賃金台帳・出勤簿(受給資格証明期間分(12か月分))、育児短時間勤務申出書、就業規則、母子健康手帳(出生届出済証明のページと分娩予定日が記載されたページ) |
8.2025年4月1日以前から要件を満たす時短勤務をしている方について
2025年4月1日前より育児時短就業を行っている方については、2025年4月1日を育児時短就業開始日とみなして、2025年4月以降の各月を支給対象月として給付金の支給申請が可能です。
この場合、仮に育児休業から引き続き、同一の子について育児時短就業を開始していた場合であっても、あくまで2025年4月1日時点での申請となるため、育児時短就業開始時賃金の届出は必要です。また、出生日などを確認する添付書類の省略もできません。
また、法改正直前の6か月間(2024年10月~2025年3月)の賃金額と2025年4月以降の賃金額を比較して、4月以降の賃金額が減少していないと支給対象になりませんので、不支給の可能性も相当あります。あくまで、4月1日時点が基準であり、時短勤務開始時点にさかのぼって給与比較をするわけではないためです。
4月からさらに勤務時間が短くなる時短就業者など、状況によっては支給される可能性もありますが、2025年4月以降に時短勤務を始める方に向けての制度と言えます。
Ⅱ 出生後休業支援給付金(産後パパ育休の夫に給与が支給された場合の従業員(妻)の申請方法について)
従業員(妻)が出生後休業支援給付金の申請をするのですが、夫は産後パパ育休中に給与が全額支給されているため出生後育児休業給付金を受給していません。この場合も申請書に夫の雇用保険被保険者番号を記載するだけでいいのでしょうか?
産後パパ育休中に給与が全額支給されている場合は、通常、夫の会社では出生後育児休業給付金の支給申請を行っていない場合が多いです。その場合、別途添付書類が必要になり、支給申請書の記入方法も異なります。
1.夫の会社が夫の出生時育児休業給付金の申請をしていない場合
産後パパ育休中にも給与支給がある場合は、出生時育児休業給付金は支給されないため、多くの会社が夫の出生時育児休業給付金の申請をしていないかと思います。この場合、支給申請がされていないので、ハローワークには夫が産後パパ育休を取得したかどうかの記録がありません。
そのため、妻の出生後休業支援給付金の申請の際、次の添付書類が必要になり、申請書への記入方法も2の場合と異なります。
【手続き方法】
「育児休業給付受給資格確認票・出生時育児休業給付金支給申請書」の「配偶者の状態」欄に「7」と記入したうえで、下記の2つの書類を添付して提出
- 育児休業証明書(厚生労働省HPよりダウンロード)
→夫の会社の証明が必要 - 夫が夫の会社に提出した育児休業申出書の写し
2.夫の会社が不支給になることを前提で出生時育児休業給付金の申請を行った場合
全額給与支給しているため、申請をしたとしても給付金は支給されませんが、それを分かったうえで、夫の会社が出生時育児休業給付金の申請をした場合、ハローワークから育児休業給付金不支給の決定通知書の発行がされます。この場合、給付金は支給されませんが、夫が産後パパ育休を取得したという記録がハローワークに残されることになります。
そのため、夫が出生時育児休業給付金の支給を受けた時と同様、妻の出生後休業支援給付金の申請方法は下記の通りとなります。
【手続き方法】
「育児休業給付受給資格確認票・出生時育児休業給付金支給申請書」の「配偶者の被保険者番号」欄に夫の雇用保険被保険者番号を記入して提出
3.夫側の会社でどう対応するか(産後パパ育休期間中に給与を満額支給する会社の場合)
今後は、妻の会社が出生後休業支援給付金の支給申請をする際、上記1、2のどちらかの対応をすることになります。
夫の会社が不支給を承知で従業員(夫)の出生時育児休業給付金の申請をする場合は、従業員(夫)が妻に自身の雇用保険被保険者番号を伝えるのみで新たな書類作成、提供は不要です。ただし、出生時育児休業給付金の支給申請に手間がかかります。
一方、夫の会社が出生時育児休業給付金の申請をしない場合は、証明書を作成し申出書とともに、従業員(夫)経由で、妻の会社に提供する必要が生じます。
どちらの方法をとるかは、事務負担等から検討しておくといいかもしれません。
Ⅲ マイナポータルで離職票を受け取れるようにするために事業主がすること
マイナポータルでの離職票受取りを希望している社員がいます。会社が事前にしなければならないことはありますか。
マイナポータルで離職票を受け取るためには、マイナンバーがハローワークに登録されていることが必要になります。マイナンバー導入前に雇用保険資格取得の手続きをした方についてはハローワークにマイナンバーの届け出がされていない場合がありますので、マイナンバー届の提出が必要です。
マイナンバーをハローワークに登録する
ハローワークでは、2016年(平成28年)1月から資格取得届にマイナンバーの記載を求めていましたが、2018年(平成30年)5月までは移行期間で、マイナンバーの記載がなくても資格取得の手続きができていました。2018年5月以降はマイナンバー記載が必須となりましたので、これ以降に資格取得の手続きをされた方についてはハローワークにマイナンバーの登録がされていることになります。
マイナンバーの届出開始以前に資格取得した従業員について、マイナンバーの届け出をまだしていない場合は、「個人番号登録・変更届」をハローワークに提出し、マイナンバーの登録をしてください。
なお、ハローワークにマイナンバーを届け出てから本人が「雇用保険WEBサービスとマイナポータル」を連携できるようになるまでには時間がかかりますので、利用予定の1~2か月前までに余裕をもって届出する必要があります。
Ⅳ 改正育児介護休業法等の最新情報
厚生労働省より、育児介護休業法の10月改正部分を含む規定例の「詳細版」が発表されました。新たなパンフレットも掲載されていますので、下記HPをご参考ください。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/000103533.html
併せて、育児時短就業給付金の手続きについても発表されています。上記に概要をまとめておりますがHPもご参考ください。
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/001395073.pdf