女性活躍推進法の改正について教えて下さい。
常時労働者数が301人以上の一般事業主に対して、「男女の賃金の差異」の情報公表が義務付けられました。その他、情報公表項目から2つ以上の公表することとされ、「男女の賃金の差異」と合わせると計3項目以上を公表する必要があります(義務)。
なお、常時労働者数101人以上300人以下の事業主は、情報公表項目から1つ以上公表すること(義務)、常時労働者数100人未満の事業主は、情報公表項目から1つ以上公表すること(努力義務)となっています。
1.ジェンダー・ギャップの現状
組織の意思決定層に女性が増えることは、イノベーションや生産性向上、人材確保、多様性の推進につながり、いまや企業成長に必要不可欠な要素と考えられます。最近では、機関投資家の9割が、企業の業績に長期的に影響がある情報として、女性活躍情報を活用しています。中でも、女性役員比率、女性活躍推進に関するトップのコミットメント、女性活躍取り組みを踏まえた経営戦略、女性管理職比率の項目が重視されています。
一方で、世界経済フォーラム(WEF)が今月21日に発表した2023年の男女平等のレベルを表すジェンダー・ギャップ指数で、日本は146か国中125位と過去最低になりました。教育、健康分野では世界の指数を上回るのに対して、政治、経済分野が足を引っ張っています。
経済分野では、女性管理職の比率が133位に留まることが大きく影響しています。日本の就業者に占める女性割合は45%でアメリカの46.8%と大きな差はありません。しかし、管理職に占める女性比率は12.9%で、アメリカの41%を大きく下回りました。民間企業の女性比率は、係長級で24.1%であるのに対し、課長級は13.9%、部長級は8.2%と上級管理職は低い傾向にあります。
指導的地位に女性が占める割合を少なくとも30%程度にするという政府目標が最初に掲げられたのは20年前のことですが、未だ日本企業には高いハードルであると言えそうです。
岸田政権は女性活躍・男女行動参画の重点方針(女性版骨太の方針)で、プライム上場企業を対象に女性役員登用について、2025年をめどに女性役員を1名以上選任すること、2030年までに女性役員の比率を30%以上とすることを目標に置いています。
また、企業における男女の賃金格差を開示する法改正も行われました。本稿では、この法改正を中心に女性活躍推進の考え方などを取り上げたいと思います。
(厚生労働省「女性の活躍に関する『情報公表』が変わります」)
2.女性活躍推進法の改正
日本における男女間賃金格差は、長期的に見ると縮小傾向にありますが、他の先進国と比較すると依然として大きい状況にあります。こうした男女間賃金格差の現状を踏まえて、更なる縮小を図るため、2022年7月8日に女性活躍推進法に関する制度改正がされました。
具体的には、常時雇用する労働者数が101人以上の企業には、①一般事業主行動計画の策定・届出義務と②女性活躍に関する情報公表の義務があります(2022年4月から301人→101人に拡大)。このうち、②女性活躍に関する情報公表について、公表項目に「男女の賃金の差異」を追加するとともに、常時雇用する労働者が301人以上の一般事業主に対して、当該項目の公表が義務付けられました。
【図表2】
(厚生労働省「女性の活躍に関する『情報公表』が変わります」)
3.「男女の賃金の差異」の算出方法
正規・非正規、男性・女性ごとに、年間賃金を計算し、それぞれ人数(月ごとの人数を平均)で割った年間平均賃金について、男女の比率を出します。具体的な算出方法は次の通りです。
- 労働者の分類…男性と女性、また正規と非正規の4種類に分類する。
- 総賃金と人員数…4種類ごとの労働者の一事業年度の総賃金と人員数を算出する。
- 平均年間賃金…4種類ごとの労働者の平均年間賃金を算出する。
- 全ての労働者の年間平均賃金…③の正規・非正規の数値を合計して、男女ごとに全ての労働者の年間平均賃金を算出する【図表2】。
- 割合の算出・公表…正規、非正規、全ての労働者の区分ごとに割合(女性の平均年間賃金/男性の平均年間賃金)を算出し、公表する【図表3】。
【図表2】
(厚生労働省「女性の活躍に関する『情報公表』が変わります」)
【図表3】
(厚生労働省「女性の活躍に関する『情報公表』が変わります」)
(1)「正規労働者」と「非正規労働者」について
次のように分類します。
「正規労働者」…期間の定め無くフルタイム勤務する労働者
「非正規労働者」…パートタイム労働者(1週間の所定労働時間が同一の事業主に雇用される通常の労働者(正規雇用労働者)に比べて短い労働者)と有期雇用労働者(事業主と期間の定めのある労働契約を締結している労働者)をいいます。
(2)総賃金について
事業年度に対応した期間内の支払額の合計が1人の年間賃金となります。これを男女に分けて、正規、非正規、全ての労働者について足し上げるのが基本的な考え方です。
賃金は、労働の対償として支払う全てのものです。退職金は除外、通勤手当は算入しても除外しても構いません。所得税法の「給与所得」と合致します(源泉徴収簿を基に作業可能)。
また、有価証券報告書を作成する事業主はそれに用いる「従業員」の範囲と「平均年間給与」の計算に用いる給与の範囲が、女性活躍推進法の「男女の賃金の差異」の算出方法における「正規労働者」の定義や「賃金」の定義に適合している場合、有価証券報告書の算出方法を踏まえて、男女別の平均年間賃金を算出して差し支えないとされています。有価証券報告書の「臨時従業員」についても「非正規庫労働者」の定義に適合している場合、その人員数の数え方を踏まえて、算出しても差し支えないとされています。
(3)人員数について
男女で異なる数え方をせず、初回の公表から将来に向かって一貫性のある方法を採用する必要があります。具体例としては、一の事業年度の期首から期末までの連続する12カ月の特定の日(給与支払日、月の末日その他)の労働者の人数の12カ月平均を用いることが考えられます。
【入退社、産休育休者】
年度途中の入退社や産休・育休入り・復職も反映可能とされています。例えば、月末を特定の日と決めた場合、月の途中で育休に入ったり、育休から戻った人は、0.5とカウントしたり、カウントに入れないとしてもよいということです。
【育児短時間勤務利用者】
育児短時間勤務利用者は、賃金、人員ともに算入する必要があります。
育児短時間勤務利用者等について給与を短縮時間分だけ減額している場合、育児等が女性に偏っている現状があれば、男女の賃金の差異は、大きくなる可能性があります。しかし、育児短時間勤務利用者等の給与・人員を除外することは適切ではありません。両性の働き方の違いが縮小すれば、男女の賃金の差異の縮小として反映されるからです。
このような事情については、後述する「説明欄」において、追加的な情報として公表することが適切とされています。
(4)情報公表について
対象事業主は、今回の法改正施行日(2022年7月8日)以降に終了する事業年度の次の事業年度の開始日からおおむね3ヵ月以内に、直近の「男女の賃金の差異」の実績を公表必要があります(事業年度が前年4月~3月の場合6月まで)。
他の情報公表項目と同様、厚生労働省の「女性活躍推進企業データベース」や自社のホームページその他の方法で、求職者等が容易に閲覧できるようにする必要があります。
【図表4】
【図表5】
「男女の賃金の差異」の計算の結果については、数値の大小に終始することなく、自社の管理職比率や平均継続勤務年数などの状況把握・課題分析を改めて行った上で、女性活躍推進のための取組を継続することが重要です。
また、自社の実情を正しく理解してもらうために「説明欄」を有効活用することが望ましいとされています。
4.女性活躍推進について
女性活躍推進は、一朝一夕には進みません。現在女性が活躍している企業の多くは、すでに20年以上の時間をかけて、模索しながら前進しているという状況です。
これは、女性活躍推進の要が意識改革であるからだと考えます。とりわけ管理職の意識を変えて、会社の風潮を変えていく必要があります。
また、育児休業や育児短時間勤務の制度を手厚くする企業もありますが、これが女性のキャリアップにつながらない可能性があります。個人的な意見ですが、これらの制度は法律に沿った最低限のものでいいのではないかと考えます。
その他、女性活躍推進対策について概要をあげておきます。
- 女性活躍推進の目的の明確化(ゴールは企業と人材の成長であること、男女だけでなく多様化している個々の従業員の尊重、求める人材像の明確化)
- 管理職研修(女性を既存の枠組みでとらえないこと、男女を区別しない評価、男女を区別しない業務配分など)
- 女性向け研修(女性リーダー育成、意識改革など)
- アンコンシャス・バイアス研修(自分自身は気づいていない「ものの見方やとらえ方の歪みや偏り」に気づき、改善していく)
- 評価制度の見直し(長時間労働ではなく成果などのその他の項目を評価する)
- 男性育児休業の推進(男女の役割分担の意識改革、男性の育児・家事参加)