育児介護休業法が改正されると聞きました。どのような準備が必要でしょうか。

育児関連の改正内容は、①テレワークの活用促進(努力義務)、②子が3歳以降~小学校就学前までの両立支援措置の義務化、③所定外労働の制限措置(残業免除)を小学校就学前まで延長、④子の看護休暇の使途の拡充・小学3年修了まで延長、⑤育児期の両立支援のための定期的な面談の義務化、⑥育児休業の取得状況の公表義務の対象拡大等です。
育児介護休業規程の改正、労使協定の見直し等の対応が必要です。特に、②の両立支援措置については自社にどのような制度を導入するのか、あらかじめ検討しておく必要があります。

人事労務 育児介護休業法の改正

1.改正の背景

 本年6月に厚生労働省が発表した一人の女性が生涯に産む子どもの数を示す合計特殊出生率は1.20で過去最低を更新し、日本の少子化・人口減少は急速に進んでいます。この急速な少子化・人口減少に歯止めをかけなければ、日本の経済・社会システムを維持することは難しく、若年人口が急激に減少する2030年代に入るまでが、この状況を反転できるかどうかの重要な分岐点であり、ラストチャンスと言われています。
 女性の就業環境に目を向けてみると、女性の第一子出産前後の継続就業率は直近で約7割と上昇傾向にありますが、女性の年齢別正規雇用比率は25~29歳のピーク後に減少する「L字カーブ」が見られます。また、育児休業取得率は、女性が80.2%、男性が17.13%、短時間勤務制度の利用率は、正社員の女性が51.2%、正社員の男性が7.6%というように、男女間で両立支援制度の利用状況に差が見られ、また、女性に育児負担が偏りがちである現状もみられます。
 一方で、両立支援制度の利用に関するニーズを見ると、正社員の男性のうち、育児休業を利用していないものの、利用したかったとする割合は約3割です。また、育児期の働き方に関するニーズでは、正社員の女性では、子が3歳以降は短時間勤務を希望する者もいる一方で、子の年齢に応じて、フルタイムで残業しない働き方や、フルタイムで柔軟な働き方(出社や退社時間の調整、テレワークなど)を希望する割合が高くなっていきます。また、正社員の男性についても残業しない働き方や、柔軟な働き方に対するニーズが見られます。
 急速な少子化が進む中、社会全体で子育てを支援し、男女ともに働きながら育児を担うことができる環境の整備にむけて、特に男性の育児休業の取得促進や、育児期を通じた柔軟な働き方の推進が求められています。このような背景から、雇用保険法、子ども・子育て支援法、育児介護休業法、次世代育成支援対策推進法の改正が行われることになりました。
 本稿では、「仕事と育児・介護の両立支援対策の充実について(建議)」(令和5年12月26日労働政策審議会。)も参考に、育児介護休業法のうち育児関連の改正内容と実務上の留意点を確認します。他の改正については、今後のレポートで取り上げます。

改正の背景

(厚生労働省「育児・介護休業法、次世代育成支援対策推進法改正ポイントのご案内」)

2.子が3歳になるまでの両立支援の拡充

(1)テレワークの活用促進(努力義務)【2025年4月1日施行】

 3歳に満たない子を養育する労働者に関し事業主が講ずる措置(努力義務)の内容に、テレワークが追加されます。
 ただし、テレワークが困難な業種・職種があることを勘案し、業務の性質・内容等からテレワーク困難な労働者をテレワークが可能な職種等へ配置転換することや可能な職種等を新たに設けることまで事業主に求めるものではないこととされる予定です。

(2)実務上の留意点

 コロナ禍が終息してからは、出社を増やす企業も増加してきていますが、育児や介護を抱える労働者にとって、テレワークは利便性が高く、ニーズもあります。またそのような事情がなくとも、テレワーク可能な職場を希望して就職活動する人もいます。努力義務ではありますが、優秀な人材確保策としても、テレワークの活用が望まれます。

3.子が3歳以降~小学校就学前までの両立支援の拡充

(1)所定外労働の制限措置を小学校就学前まで延長(義務)【2025年4月1日施行】

 現行、所定外労働の制限(残業免除)は3歳未満の子を育てる労働者が対象ですが、これを3歳以降小学校就学前までの子を育てる労働者にまで、対象を拡大します。子が3歳以降~小学校就学前までの子を養育している労働者から、残業免除の請求があれば、事業主はこれを認めなければなりません。

所定外労働の制限措置を小学校就学前まで延長

(厚生労働省「育児・介護休業法、次世代育成支援対策推進法改正ポイントのご案内」)

(2)柔軟な働き方を実現するための措置と個別周知・意向確認の義務化【公布後1年6月以内の政令で定める日】

 子の年齢に応じて、柔軟な働き方を活用しながらフルタイムで働くことに対するニーズも増していることから、労働者が柔軟な働き方を活用しながらフルタイムで働ける措置も選ぶことができるように、新たな措置が創設されました。

柔軟な働き方を実現するための措置と個別周知・意向確認の義務化

(厚生労働省「育児・介護休業法、次世代育成支援対策推進法改正ポイントのご案内」)

 具体的には、各職場の事情に応じて、事業主が以下の中から、2以上の制度を選択して措置することが義務付けられます。労働者は、事業主が選択した2つの措置の中から1つを選択できます。

労働者は、事業主が選択した2つの措置の中から1つを選択できます。
  1. 始業時刻等の変更については、フレックスタイム制又は始業・終業時刻の繰上げ・繰下げのうち、いずれかの措置です。所定労働時間を短縮しないものとし、フレックスタイム制であれば、総労働時間を短縮しないものとなります。
  2. テレワーク等は、頻度等に関する基準を設けることとされています。勤務日の半数程度(1か月10日以上)といった内容が考えられます。テレワークにより通勤時間が削減されることにより、所定労働時間を短縮せず勤務が可能になると想定されるため、所定労働時間を短縮しない措置であることが必要とされています。
  3. 保育施設の設置運営その他これに準ずる便宜の供与には、例えば、ベビーシッターの手配及び費用負担等があげられます。現行の3歳になるまで短時間勤務制度の代替措置における扱いと同様の措置とすることとされています。
  4. 新たな休暇の付与は、法定休暇(子の看護休暇や年次有給休暇等)とは別に付与する制度です。子の人数にかかわらず年間10日、時間単位で取得できるようにし、始業時刻または終業時刻と連続するものとされる予定です。ただし、中抜けを認めるよう配慮することが求められる旨、指針で示される予定です。
  5. 短時間勤務制度は、原則1日6時間とする措置は必ず設けることとされています。その他の勤務時間も併せて設けることが望ましい旨、指針で定められる予定です。

 事業主は、措置を選択し、講じようとするときは、過半数労働組合又は過半数代表者(過半数労働組合が無いとき)の意見を聞かなければなりません。
 また、子が3歳になるまでの適切な時期に労働者に対して制度の説明と取得意向を確認するための面談等を行うことも義務付けられます。個別周知・意向確認の方法は、今後、省令により、面談や書面交付等とされる予定です。

(3)実務上の留意点

 (2)の改正は、3歳以降から小学校就学前の子の育児をしている労働者について、事業主に柔軟な働き方の措置を講ずる義務を新たに課すもので、インパクトは大きいでしょう。措置を導入する際は、過半数労働組合(または過半数代表者)の意見聴取に加えて、育児当事者等からの意見聴取や労働者へのアンケート調査の活用も並行して行うことが望ましい旨が指針で定められる予定です。育児当事者、当事者でない者のどちらかに偏ることなく、双方の納得が得られるよう、よく協議することが重要です。
 改正前より、3歳以降の短時間勤務制度をすでに導入している企業もあります。しかし、中小企業では人手不足もあり、そこまでの整備が進んでいない実感があります。また、現状では、短時間勤務を請求するのは女性に偏っており、新たに創設される育児時短就業給付金も2歳で終了のため、子が2歳以降に短時間勤務制度を選択する男性は少ない可能性があります。そうすると小学校就学まで短時間勤務制度を延長したとしても、その制度を利用するのは女性に偏り、キャリアへの影響が益々大きくなる可能性もありますので、十分な検討が必要でしょう。
 例えば、始業・終業時刻の繰上げ・繰下げと、事務系職種ではテレワーク、テレワークが難しい職種であれば新たな休暇制度を導入するなど、業務の性質・内容等に応じて2つの制度の組み合わせを変えることも可能です。各職場の事情に応じて検討してください。

4.子の看護休暇の見直し【2025年4月1日施行】

 子の看護休暇について、感染症に伴う学級閉鎖等や子の行事参加(子の入園式、卒園式及び入学式を対象)にも利用できるように、取得事由が拡大されます。
 また、現行は小学校就学前の子を育てる労働者が対象ですが、改正により小学校3年生修了時までとなります。さらに、勤続6月未満の労働者を労使協定に基づき除外する仕組みが廃止されます。このような労使協定を締結していた企業は協定内容を変更し、締結しなおす必要があります。

子の看護休暇の見直し

(厚生労働省「育児・介護休業法、次世代育成支援対策推進法改正ポイントのご案内」)

5.育児期の両立支援のための定期的な面談の義務化【公布後1年6月以内の政令で定める日】

 これまでより両立支援制度の利用期間が延びることで、制度の利用期間中に労働者の仕事と育児の状況やキャリア形成に対する考え方等も変化することが想定されます。そのため、妊娠・出産の申出時や子が3歳になる前に、労働者の仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮が事業主に義務付けられます。意向聴取の方法は、省令により、面談や書面の交付等とされる予定です。

育児期の両立支援のための定期的な面談の義務化

(厚生労働省「育児・介護休業法、次世代育成支援対策推進法改正ポイントのご案内」)

6.育児休業の取得状況の公表義務の対象拡大【2025年4月1日施行】

 男性の育児休業の更なる取得促進のため、常時雇用する労働者数が1000人超の事業主に義務付けられている男性の育児休業取得率の公表義務の対象を拡大し、300人超の事業主にも公表が義務付けられます。
 規模の小さい企業では育児休業の対象者となる男性労働者数が少ない場合があるため、厚生労働省のウェブサイト「両立支援のひろば」において説明欄を設けられ、当該説明欄や企業のウェブサイトにおいて公表時に社内の状況に関する説明することができます。
 公表内容は、公表を行う日の属する事象年度の直前の事業年度(公表前事業年度)における次の①または②のいずれかの割合を指します。

育児休業の取得状況の公表義務の対象拡大

(厚生労働省「育児・介護休業法、次世代育成支援対策推進法改正ポイントのご案内」)

7.最後に

 育児介護休業法の改正により、育児介護休業規程や労使協定の見直しが必要になります。今後の省令、規定例等の情報に留意しておく必要があります。自社でどのような制度を整備するのか、選択が必要なものについては、あらかじめ検討しておくとよいでしょう。
 なお、少子化の原因は複合的ですが、その一つに男性の家事・育児時間の短さの問題があります。女性(妻)の就業継続と第2子以降の出生割合は、夫の家事・育児時間が長いほど高い傾向にありますが、日本の夫の家事・育児関連時間は2時間程度と国際的にみても低水準です。こどもがいる共働きの夫婦で、平日の帰宅時間が女性よりも男性が遅い傾向にあり、保育所の迎え、夕食、入浴、就寝などの育児負担が女性に集中する「ワンオペ」になっている傾向があります。
 国の政策も重要ですが、給付中心の政策では少子化は改善されません。根強い固定的な性別役割分担意識から脱却し、社会全体の意識の変革や働き方改革等に取り組む必要があります。企業は長時間労働改善等の働き方改革、全ての年代の労働者に対し性別役割分担意識を変えるよう意識改革に取り組むべきと考えます。そのことが多様性を促進し、ひいては企業の成長につながるものと考えます。